第15話 2章:触手と姫騎士(10)

◇ ◆ ◇


 短期間での害異の出現は、大いに世間を騒がせた。

 一日一発の爆撃を日常のように報じていたマスコミも、今はまた害異一色だ。

 報道で僕達のことは出ていなかったが、望遠で撮影された赤い線だけはSNSで拡散されていた。

 赤石と僕の攻撃によるものだ。

 情報操作がなされ、米軍の新兵器ということで、噂は落ち着いていた。

 中には「異能力者の仕業だ!」などという、正解をかする意見もあったが、ネット民の戯言として、オモチャにされて終わった。


 自分達のがんばりが闇に葬られるのは少し悲しいが、カメラに追い回されるよりはマシかもしれない。


 報酬の代わりというわけでもないだろうが、僕の住処として50階建てタワマンの最上階が用意された。

 ヘリポートがついているあたり、いつでも出動できるように飼われているだけかもしれない。

 地下施設に監禁されるよりよっぽどいいけど。


 与えられた住居はワンフロアぶち抜きで、数えてみたら10部屋あった。


 過剰なんだよなあ。

 これ税金でしょ?


 兄弟はもともといないし、両親への説明は真白さんがしてくれたという。

 あの2人なら、金でも握らせておけば黙るだろう。

 ここで一緒に暮らせと言われなかったあたり、身辺調査はばっちりされているらしい。


 つまり、この広い家で一人暮らし……ではない。


 風呂からバスタオル一枚で出てきたのは赤石だ。

 彼女もここに住むのである。


「ジュン様……」


 ソファでぐったりしていた僕のとなりに座った彼女が、体をぴったりと寄せてくる。

 唇を重ねようとしてくる彼女の頭をぐいと押し返した。


「なんで……?」 

「こんなところで変身されても困る」

「そんな……じゃあ、ずっとシてもらえないの?」


 赤石がぐんにゃりとしょげる。


『大丈夫よ』


 そこに割り込んできたのは、突然ついたリビングのテレビだ。

 映し出されたのは、マンションの一室を背景にした真白さんである。


「え? なんでテレビが勝手に? か、監視されてる……?」

『大丈夫よ』

「待って! 全然大丈夫じゃないんですけど!?」


 この人の『大丈夫』はほんと信用ならんな。


『分析の結果、姫騎士はジュン君から注がれたエネルギーをある程度ためられるようになりそうなの。訓練は必要だけどね』

「ほんと!?」


 喜ぶ赤石だが、監視の件を先に問いただしたいぞ。


『だからばんばんヤっちゃって。変身をしなくてすむ感覚を早くつかんでね。そうすれば、戦闘中の補給も少なくてすむはずだから』


 バンバンてオイ。


「真白さん、それよりここが監視されてるんじゃ……」

『ちゃんとジュン君の安全は国が護るから安心してね』

「いや、プライバシーの心配をしているんですが」

「あたしは見られながらでも大丈夫だよ」


 むしろちょっと興奮気味の赤石である。

 ややこしくなるから黙っててほしい。


『私もこうしていつでも出られるように下の階に住んでるんだから。定時の存在しない公務員を労ってほしいわ』

「それは大変でしょうけど……」


 それと僕が監視されるのは別問題じゃない?

 事情を考えるとしかたないけどさ。


『上層部ではもっと軟禁っぽい案も出てたんだから、悪いけどこの辺を落としどころにして』


 真面目な顔になった真白さんの声には、やや疲れが滲んでいた。

 もしかすると、僕のために色々手を尽くしてくれたのかもしれない。


「わかりました。でも、トイレだけは勘弁してくださいよ」

『一人でしたいときもあるもんね』

「そういう意味じゃありませんよ!」

『それと、もうすぐプレゼントが届くはずだから、上手くやってね。それじゃあお休みなさい』


 真白さんが一方的にそう言い残すと、テレビの電源は勝手に切れた。


 プレゼントってなんだ?


 疑問を口にする前に、インターホンが鳴った。

 壁に備え付けられた小さなモニターには、マンションのエントランスが映っている。


 そこにいたのは、高そうなワンピースに見を包んだ縦ロールの金髪お嬢様。

 校内一の美少女にして、僕をイジメているグループのリーダー。


 黄宮だった。






【後書き】

ここまでお読み頂きありがとうございます。

いったんここで区切りとなりますが、ご好評頂けたら続編を書きたいと思います。

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おまえも僕の姫騎士にしてやろうか 遊野 優矢 @yuyayuya

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