第14話 2章:触手と姫騎士(9)
『やめろって……言ってんでしょお!』
赤石の気合とともに、触手は内側から弾けるが、彼女の鎧や盾はほとんどが溶けてしまっていた。
「ジュン君! まだ撃てそうにない!?」
「まだです!」
ダムレイの時に感じたような、胸が熱くなる感じはない。
「マズイわ。赤石さんのエネルギーは防御にかなり費やされてる。彼女を呼び戻して! 補給を!」
補給って、そういうことだよなあ。
「戻れ! 赤石!」
『でもまだ……』
「いいから!」
『くっ……!』
イソギンチャクの触手を蹴った赤石が、轟音とともに僕達の近くに着地した。
着地というより、ほとんど着弾に近いな。
盾はおろか、剣も半ばまで溶けている。
鎧にいたっては殆ど残っておらず、ほぼ全裸だ。
その姿を見て、思わず興奮してしまう。
どうしたんだよ僕の性欲!
人並みの性欲は持ち合わせているつもりだったけど、この非常時にそんなことを考えられるほどではなかったはず。
身体強化といい、大丈夫かな僕の体……。
「ジュン……様……はぁはぁ……」
体を起こした赤石が、僕の脚にすがりついてくる。
よくみると、背中に火傷のような跡もできていた。
紅く染まった赤石の顔が、股間へと近づく。
「これはキスだけじゃだめね。そこのテントで注入してきて」
真白さんが、近くの軍用テントを指差した。
「そんな給油みたいに……」
「早く!」
生存本能が刺激されると、本能が子孫を残そうと性欲が増すらしい。
それがどの程度本当かは知らないが、確かに僕の性欲は爆発寸前だった。
貪るように僕の唇に吸い付いてくる赤石を、仮眠用のベッドに押し倒した。
……。
…………。
………………。
エネルギー全快になった赤石がテントを突き破り、空へと飛び出して行った。
前に構えた盾で、襲いくる触手を蒸発させながら、全身を赤熱させた赤石が害異に剣を突き立てた。
――ギオオオオッ!
不快な声(?)を撒き散らしながら、害異は大きくのけぞった。
自身のかかるのも構わず、触手の先から溶解液を赤石に浴びせる。
全身に纏う赤いオーラで溶解液を弾きつつ、白い肉壁に剣を潜り込ませていく。
――ギオオオオッ!
たまらず、害異は赤石を触手で飲み込んだ。
「赤石さん!」
真白さんが叫ぶが、大丈夫だ。
赤石はまだ生きている。
それどころか――
赤石の剣から伸びた赤いラインが、大きく弧を描いた。
触手の中から現れた赤石が、大きく飛びのく。
白い壁がばっくり裂け、朱と蒼に明滅しながらランダムに回転する立方体が浮いていた。
見えた! 心臓部!
胸が熱くなるのと同時に、『砲』の文字が浮かび上がる。
いける!
手のひらからエネルギーが放出されるのをイメージをすると、両手の前にバスケットボールほどの、赤く輝く球体が出現した。
山頂から遠くの害異を見下ろし、狙いをつける。
いくら対象が大きくても、この距離なら1度ずれただけでもハズれるだろう。
だけどなぜか、絶対に当たるという確信があった。
「貫け!」
僕の声に呼応し、真っ赤な光がダムレイの心臓へと伸びた。
心臓の表面で一瞬止まった光は、そのままあっさりと貫通し、地面をえぐる。
光の触れた地面は溶岩のように真っ赤になり、近くにあった木々が熱にやられて発火する。
同時に、害異の心臓は色を失い、黒い塵となって消えた。
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