第11話 2章:触手と姫騎士(6)
◇ ◆ ◇
真白さんに連れてこられたのは、小さな会議室だった。
長机を挟んだ向こうに真白さん、僕のとなりには白衣を着た研究員風の女性が一人、座っている。
後ろ姿だけなら小学生と間違われそうな背格好だが、どうやら20代中盤らしい。
なんで僕、こっち側なの?
「山本さん、あなた処女よね?」
真白さんが急にとんでもないこと言い出した!
女性同士とはいえ、明らかなセクハラである。
「うん、そう」
無表情のままさらりと答えおった!
え? 僕が気にしすぎなのかな?
「じゃあ、これ飲んでみて」
真白さんが、透明な液体の入った紙コップを差し出した。
「……水?」
山本さんは、手で扇ぐように液体の匂いを嗅いだり、コップを少し傾けてみたりしている。
理科の実験みたいだ。
格好から察するに、本当の科学者なんだろうけど。
ところで、「じゃあ」の前後が全くつながっていなことを気にする人は、ここにはいないのかな?
「毒なんて入ってないから、ぐいっといっちゃって」
「何を入れたのか、詳細なデータを後でちょうだいよ」
そう言いながら、山本さんはコップの水を飲み干した。
すげえ! 何か入れられてるのを確信しながら飲んだぞ!?
2人に信頼関係があるのか、単に変わった人なのか……。
「ん……?」
やがて、山本さんの目がとろんとしたものに変わり、頬が紅く染まった。
あれ? この症状、見たことある。
「なにこの気持ち……」
山本さんが遠慮がちに、僕のシャツの裾をつまんでくる。
なにこのかわいい生き物!?
「真白さん! いったい何を入れたんですか!」
半ば答えがわかっていての問いである。
「さっき検査目的で唾液をもらったじゃない? アレよ」
少しは悪びれて!
「私のナカにまだ残ってるのを使ってもよかったんだけど、さすがにそれはね……」
なんのことかは聞かないからね!
「やっぱり新鮮じゃないとデータとして扱いにくいし」
そんな理由!? ホントにそれが理由!?
倫理観は国家試験会場に忘れてきたのかな?
「あれだけで効果があるのね……」
真白さんは、僕にしなだれかかってくる山本さんをまじまじと観察している。
僕が山本さんのとなりに座らされたさ理由がわかったよ!
「いやいや、これで姫騎士化したらどうするんです?」
「その時はその時だけど、多分大丈夫。昨日の実験データによると……」
「あれ? わたしいったい……ひゃっ!?」
山本さんが僕からぱっと体を離した。
「ほらね。あれくらいの量だど、体に浸透しきらないみたいなの。効果は極めて限定的よ」
ほらね、じゃないが……。
完全に人体実験だよね?
「でも効果が出たことは確かね。やっぱり条件は『処女』かしら……。決めつけるにはデータが足りないけれど……」
PCになにやら打ち込む真白さんである。
この組織、人権とか気にしないんかな?
「ちょっと見せて」
ててて、と真白さんのとなりに移動した山本さんが、PCの画面を覗き込む。
こうして並ぶと、完全にお姉さんの仕事を覗き込む子供だ。
「なるほど……興味深い……」
自分が実験台にされたにも関わらず、真剣にモニターを見つめている。
本人が気にしてないならいいか。
……いいのかなあ?
手持ち無沙汰になった僕が、ぼけっと二人の様子を眺めていると――
――ビー! ビー! ビー!
館内にけたたましい警報が鳴り響いた。
続いて、ブツッというスピーカーのスイッチか入った音。
『害異出現! 害異出現! 職員はA級対応配置! これは訓練ではありません! 繰り返す! 害異出現! 職員はA級対応配置!』
「もう次が出た!? ジュン君! 一緒に来て!」
部屋を飛び出す真白さんに続いて、僕は廊下を駆けた。
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