第7話 2章:触手と姫騎士(2)
トイレの個室に入った僕は、ためしに財布から取り出した十円玉を指で縦に力を込めてみた。
するとコインは、ゆっくり曲がり始めた。
こんな力、僕にあるはずがない。
体のあちこちを触ってみるが、筋肉がついたということもなさそうだ。
後で真白さんに相談してみるか……。
――コンコン。
とりあえずここを出ようと立ち上がると、個室のドアがノックされた。
トイレには僕以外誰もいなかった。
当然、他の個室はあいているはずだ。
アイツらにトイレでいろいろされた嫌な記憶が蘇り、思わず天井とドアの隙間に目を向けてしまう。
「ジュン様、明音だよ」
ドアの向こうから聞こえたのは、赤石の小さな声だった。
「ここ男子トイレだぞ」
「うん、だから早くイれて欲しくて……」
イれるという単語だけで、あの夜を思い出してしまう健康な男子高校生である。
ここまで追って来るのだから、何か話があるのだろう。
僕がドアを開けると、赤石はするりと個室の中に体を滑り込ませ、後ろ手でカギを閉めた。
「ジュン様、ごめん!」
そのままの勢いで抱きついてくる。
片腕を前で吊っていてなお、そのボリューム十分な胸が当たる。
「いつも通りしてくれと言ったのは僕だ」
「でも……でもぉ……」
これまでなら嬉々としてイジメに参加していたはずだが、今は涙目で僕を見上げている。
「お仕置きして……ください……」
赤石がウルんだ目で見つめてくる。
これまでされてきたことを思い出し、加虐心がくすぐられる。
だけど、やられたことをそのまま返すようなマネはしたくなかった。
じゃあどうすると言われてもね……。
特に何も思いつかないんだよね。
「これでどうですか……? 片手しか使えないけど……」
赤石は膝立ちになると、僕の太ももにそっと手を添えた。
……。
…………。
………………。
「んっ……」
赤石がごくりと喉を鳴らした。
「はぁ……」
恍惚とした赤石が立ち上がり、物欲しげに顔を近づけてくる。
今の赤石とキスする気にはならなず、顔をそむけた。
悲しげな顔をした赤石の体が光出す。
しまった!
僕の体液を取り込むと、変身するんだった!
こんな狭いところで!
出現した赤石の鎧が、トイレの壁をひっかき、傷をつけている。
これじゃあ僕が疑われかねない。
「あれ?」
赤石は自分の腕をペチペチ叩いた。
折れていたはずの腕をだ。
「治ってる」
変身した際、つけていたはずのギプスも制服とともに消滅していた。
ちなみに、服は変身が解けると同時に戻るらしいが、ギプスもそうなのだろうか。
「ありがとう、ジュン様」
変身になのか、僕の体液になのかは知らないが、治癒効果があるらしい。
全くお仕置きにはなってないが。
「でもこれ、どうしよう……」
鎧姿になった赤石は、両手で大きな胸を持ち上げた。
たしかにこのまま教室に戻るわけにはいかないし、街を歩けば痴女扱いだろう。
どれくらいで解けるものなんだろうか。
そもそも、自然に解けるのか?
「とりあえず、真白さんに連絡してみるか……」
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