第5話 1章:初体験からの初体験(5)
◇ ◆ ◇
「ジュン様!」
僕の名前を呼ぶ赤石の声が、意識を夢から現実へと引き戻した。
静かに揺れる新幹線の背もたれは、フルフラットに倒されている。
この新幹線、そんなところまで改造されているのか……などと、余計なことを考えてしまう。
赤石はとなりの席で僕と同じように横になり、心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
その左腕は包帯で吊られていた。
「気がついた?」
ノートPCを叩く手を止めた真白さんが、起き上がろうとする僕を手で制した。
「説明してください」
何をとは問わない。
全てをだ。
「そうね。東京まではまだ時間があるわ」
真白さんは小型ながらも無骨なノートPCをパタンと閉じた。
「ちゃんと自己紹介をする余裕もなかったら改めて。災害級異界生物対策本部――通称、害異対の殲滅部長、穴井真白(あないましろ)です」
目をキリリとつり上げながらも、僕のことを心配げに見下ろしている。
きっと根はいい人なのだろう。
「害異については説明不要ね?」
「半年前、青森に突然出現した怪獣、ですね?」
「ええ。通常兵器はほぼ受け付けず、出現初期に使用された核ですら決定打にはならなかった」
1日1度の燃料気化爆弾による足止めが、現状の最適解だとニュースでやっていた。
逆に言うと、人類にはそれが精一杯だったのだ。
「それを倒したのがあなたたちよ」
「なぜ僕達にそんな力が……」
「姫上伊代(ひめがみいよ)……伊代ちゃんとHをしたでしょう?」
「は、はぁ……」
朝チュン現場に踏み込まれたのでバレてはいるのだが、あらためてそう言われるのは恥ずかしい。
となりで赤石が少し不満そうに口を尖らせている。
「伊代ちゃんの『初めて』は、人類にとある能力(ちから)を与える効果があったの」
公務員の説明にしてはファンタジックすぎない?
今更だけど。
「それって……」
「Hした女の子を姫騎士にする能力よ」
えぇ……?
赤石の戦いを見ると信じざるをえないけど……。
「ちなみに姫騎士ってネーミングは伊代ちゃんだからね」
真白さんはそっと目を逸らした。
いい大人が「姫騎士」なんて単語の説明をするのは、そりゃ恥ずかしいだろう。
「そこはまあ……どうでもいいんですけど、姫騎士ってなんなんです?」
「詳しいことは訓練で説明するけど、害異と戦う力を持つと同時に、ジュン君の発電機みたいな役割かな」
戦えるのは見てわかったけど、発電機ってなんだ?
「ジュン君からHによって与えられたエネルギーを害異と戦うことで消費、それによってジュン君にまた別位相のエネルギーが蓄積するって理屈らしいわ。そして、害異の心臓を破壊できるのは、ジュン君だけというわけ」
「全く何を言ってるかわかりませんね」
「大丈夫、誰もわかってないから」
大丈夫なのかそれ?
いや、害異が現れてから、大丈夫だったことなど一度もないのかもしれないけど。
「最後に僕が赤い光を撃てたのって、その別位相のエネルギーがたまったからってことですかね? 格闘ゲームの必殺技ゲージみたいに?」
姫騎士が戦うほど、僕のゲージがたまる的な。
「格闘ゲームのことはさっぱりだけど、たぶんそれよ」
てきとうだなあ。
「つまり、これから来るであろう害異と戦うため、ジュン君には女の子とばんばんHをしてもらいます」
「えぇ……」
やっぱり公務員のセリフとは思えない。
「ジュン君がそこでどん引きしてくれるような子で少し安心したけど、これは世界の危機なの」
「でもなんで伊代ちゃんがそんな能力を……」
「それは彼女が仮死状態から目を覚ました時に聞いてみて」
「どうしたら目覚めるんです?」
「害異を全て倒すか、害異がこちらの世界に現れる『ゲート』が閉じたら、と彼女は言っていたわ。ゲートについてはわからないことが多すぎるから、前者を狙うことになるでしょうね」
「なんで……」
今日何回目の『なんで』だろう。
「害異は伊代ちゃんを狙って侵攻している。これはいくつかの実験から、ほぼ確実よ。そして彼女が言うに、ゲートが開いた状態で伊代ちゃんが死ぬと、世界が滅びるそうなの。自ら仮死状態になったのは、寿命を延ばすためもあると言っていたわ」
「それ……ほんとなんです?」
普通の高校生が背負うには、随分と大きな話だ。
あれだけの戦闘を見た後でさえ、まだ現実感がわかない。
「私達も半信半疑だったけど、今日の結果を受けて状況は一変するでしょうね。予算も他国のバカ高い兵器購入から、少しはこっちに回ってくるはず……って、これはジュン君には関係ない話ね」
混乱する頭を無理矢理整理する。
こういう時は、口に出してみるのがいい。
「つまり……、異世界から出現していると言われる害異は伊代ちゃんを狙っている。これから来る害異を全て倒すと、伊代ちゃんを助けることができる。
害異にトドメをさせるのは僕の攻撃だけ。
僕が攻撃するためには、僕とHした姫騎士が戦う必要がある。
姫騎士が戦うには、僕とHやキスなどをする必要がある。
ついでに、僕とHをした女子は、洗脳みたいな状態になると……」
「そういうことね」
わーお。
頭が痛くなりそうだ。
別れの日、伊代ちゃんが妬いていたのはコレが原因か。
「これから『害異対』は、ジュン君達を全力でサポートします。生活が変わってしまうと思うけど、我慢してね。それなり以上の補償は国から出るから」
「かまいませんよ。これまでだってろくな生活じゃなかった」
そう言った僕を、真白さんは悲しげな目で見つめたのだった。
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