真摯さがここにある

『他人への賞賛を示す、拍手の音が不気味だった。』
 冒頭のこの一文が私には刺さりました。
 今の私は誰かが賞を取った時、拍手に疑問を感じません。自分が同じ賞に応募していたとしても、何の抵抗もなく手を叩くでしょう。
 その自分の鈍麻をいきなり自覚させてくれる若々しい感覚に非常に惹き付けられました。美しさにも醜さにも敏感で繊細な、大人にとって青春として煌めいて見えるものが作中にあります。

 この鋭敏さの一方、作中の「私」は非常に冷静に自分の創作を分析して行きます。感覚に呑まれそうで、吞まれない……吞まれることが出来ずに藻掻く「私」の姿。
 それすらも青春として眩しいのは、すっきりとした言葉で描写される透明感も大きいと感じました。