第4話 4歳、飼いねこ

 最近、飼い主があまり遊んでくれなくなった。以前は家にいない時間が多かったけれど、ここのところはずっと家にいて画面に映った人に向かって何かを話している。そんなときは全然僕にかまってくれないんだ。


だから画面の人と飼い主の間にわざと割り込んでやった。でもすぐにどかされちゃったから、飼い主のひざの上にのっておやつ下さい、て言ったけど、頭をなでられて床に下ろされちゃったんだ。


まあ、ぼくだってもう大人の猫だからね。あんまりしつこいことはしないことにしている。それで部屋の柱でツメを研いでいたら、なんだか飼い主がこちらをみて慌てて走り寄ってきたから、やっと遊ぶ気になったか、相手してやろうかな、と思っていたら、部屋から追い出されてしまった。ツメのお手入れは大事なのにね。 

 

 廊下を歩いていると、いつもは入れない飼い主の寝床がある部屋のドアが開いていたので、早速なかに入った。ふと横をみると、飼い主の脱ぎ捨てた寝巻が床にちらばっていたから、その上で丸くなって昼寝をした。ひとしきり寝てから起きると、飼い主の様子をみにいく。

まだ話してる。ま、ぼくももう大人だから、部屋の見回りでもしてくるか。 

 

 階段を登って2階へいくと、取り込まれた洗濯物がたたんであった。折りたたまれて積み重ねられたバスタオルの上に乗る。これが気持ちいいんだ。ぼくのなわばりにあるものだから、自分のにおいを念入りに付けておこう。寝転がりながら、何回も顔と体をふかふかのタオルにこすりつける。何だかまた眠くなってきちゃった。


 次に目を覚ますと、外はすっかり暗くなっていた。

おなかすいたな、ごはんまだかな。2階の部屋を出て、階段を下りて1階の部屋へ行く。

おや、飼い主がなにか食べてるぞ。こういう時は、ぼくのご飯も出してくれるんだよね。

飼い主に走り寄って大声でご飯を要求した。ぼくのご飯、くださぁい。

 

 お腹がいっぱいになると、また眠くなってきた。飼い主がぼくのお気に入りの魚のおもちゃを目の前に出してきた。今はそんな気分じゃないんだけど、ちょっとだけ相手してやるか。

動くさかなをつかまえてやろうと、追いかけた。右手で弾いた魚のおもちゃがポーンと机の上に飛んでいった。ぼくはジャンプして必死に机の上に登って追いかけたら、なにかが足にあたった気がした。「ぎゃー」という飼い主の大きな声が聞こえたので、慌ててソファのかげにかくれて様子をうかがった。どうやらぼくはコップの水をこぼしたらしい。「パソコンのキーボードが、」とかいう言葉がきこえたけど、ぼくにはなんで飼い主があんなにあわててタオルでふいているのかよく分からなかった。


 何だか遊んでもらえなさそうなので、お風呂場へ行くことにした。このふたの上があたたかいんだよね。ふたの上に座っていると、しばらくして飼い主が入ってきた。どうやらひと段落ついてお風呂に入ることにしたらしい。しょうがない、おとなのぼくはお風呂場を飼い主にゆずって、自分のねどこへと向かう。ぼくのねどこは、お気に入りの段ボールの中だ。飼い主がぼくのためにどこかで買ってきたふかふかのふとんよりも、ぼくは段ボールの中の方が落ち着けるので好きだ。


 今日も特に異常なし、ぼくの一日はこうして終わる。また飼い主の相手をしてやらないといけないからな、あしたも忙しくなりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る