第2話 30代、会社員
転職と同時にアパートを借りて実家を出た。一人暮らしも3年目を迎え、一人で食べる食事にも慣れたつもりでいた。
突然のコロナ禍による緊急事態宣言で職場の同僚と外で食事をする機会は減り、職場内でCOVID-19の対応業務に追われることになった。新しいプロジェクトを開始した矢先の新規感染症の流行で、通常の立ち上げ業務に加え、対面業務の抑制とオンライン会議を中心としたテレワーク業務を余儀なくされた。家にこもってパソコンに向かう日々、慣れない職務環境下で仕事と休みの境界線はだんだんと曖昧になっていき、深夜まで仕事をする日が日増しに増えたことによるものなのか、食欲もわかない日々が続いていた。人と人との距離が遠く、1人で食事をすることすら面倒くさく感じた。
そんなある日の日曜日、どこへ出かけるでもなく家で過ごしていたが、夕方になってもいまいち食欲がわかず、布団の上に寝転がってごろごろしながらスマートフォンをみていた。ラーメンやパスタ、様々な人間が様々な食べ物を食べる動画をいくつも見た。そして、とある動画投稿配信サービスのチャンネルでお笑い芸人がラーメン次郎の大盛りラーメンを食べる動画と出会った。少食なお笑い芸人が大盛りのラーメンを完食する様子を見届けると、自身のお腹も空いてきたことに気付く。ゆっくりと起き上がり、キッチンへ行くと、ご飯とみそ汁を用意した。もう一度同じ動画を見ながら、自分も一緒に参加している気分で食べた。おいしかった。お腹のあたりで消化管が活動をはじめたことが分かった。その日から、食欲のない日曜日の夕方は、動画をみながら食事をすることで、孤独感が少し和らいだ。
自分の場合、食事は1人でするよりも、他に一緒に食べてくれる人がいる方が、おいしく食べられるようだ。緊急事態宣言が明け、ワクチン接種を終えて少ししたとある日曜日、2年ぶりに手土産のさくらんぼを持って電車で1時間ほどの実家へ帰った。両親は少し白髪が増えていたが、まだまだ元気で安心した。室内の喚起をし、十分な距離を確保しながら久しぶりに3人でお昼を食べた。あまり長居はできなかったが、久しぶりにおいしいと感じる昼食を楽しむことができた。
最近、テレワークの環境にも少しずつ慣れてきたと思う。仲の良い会社の同僚に、1人きりの食事はどうも食がすすまないことを思い切って打ち明けた。次の日、その同僚は1人で食事をすることがつらい人の集いというものがコロナ禍にオンラインで開催されていることを教えてくれた。
その日の晩から早速参加してみると、オンライン食事会とはいえ、様々な年代の参加者がおり、気が向いた時に気軽に参加しながらその時々に居合わせた人たちで食事をしながら会話を楽しむ自由な形式のようだった。少し気おくれしたが、画面上で隣り合った年配の老人から話しかけられ、話してみれば出身地が同じ横浜であること、大好物である崎陽軒のシュウマイ弁当の話で大いに盛り上がった。
コロナ禍になり、人は群れで生活する社会性をもった生物であることをつくづく思い知らされた。でも、オンライン上では新しいコミュニティが生まれ、何とかこの状況に適応しようとしている。変化を恐れず自身の課題に対応するべく、進んでいくことが生物にとっては重要なことなのかもしれない。コロナ禍の状況は、自分自身にそんな気づきを与えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます