人生は曇りのち雨、のち晴れ
一之森 一悟朗
第1話 40代、会社員
ここ数か月、激しく変化する社会情勢の中で対応業務に忙殺され、我が部署の売り上げは減少していた。そんな中、ある取引先への納品日記載ミスが発覚し、取引先の社長に何度も頭を下げて謝罪し、予定より半日遅れの納品で何とか話をつけることができた。そこから家に帰ってからも深夜を超えてパソコンで作業をする日々が続いている。
40代を過ぎてから、連日の長時間にわたるパソコン業務により鉛のように凝り固まった肩と長年悩まされている腰痛の悪化に加え、老眼で細かな文字がみえない。1か月ほど前に老眼鏡を購入してからは、作業はしやすくなったものの疲れ目がひどく、自身の可動限界時間は30代に比べて短くなっていた。
ふと時計をみると、時計は深夜2:50を指している。
突然、涙が頬を伝う。俺、なんでこんなにぼろぼろになってるんだろう。こんな人生、もう嫌だ。
いい年して結婚もできず、仕事でも大きな貢献があるかと言われれば、同期の出世のスピードの速さをみれば、自分の貢献度なんて会社にとってちっぽけなものなんだろう。人付き合いも下手だし、上司におべっかの1つも言えない。どうしようもない気持ちをごまかすように、スマートフォンを取り出し、とある動画投稿配信サービスを開く。
お笑い芸人が叫ぶ。「あきらめるな。死にたくなったら俺をみろ」
不器用なお笑い芸人の実直な叫びが心に温かにしみ渡る。
こんな俺でも許される気がした。
動画をみて笑った。長年の仕事ではり付いた愛想笑いじゃなく心から腹をかかえて笑った。40代のおじさんが、心から笑った。
学生時代の部活や友達との放課後を思い出していた。川へ釣りに行ったり、駄菓子屋で当たりくじを競い合ったこと、夏休みに自転車で田舎のじいちゃんちに行って、たんぼに突っ込んだこと、胸が熱くなった。じいちゃん、昨年亡くなったけど、今年はお墓まいりに行こうかな。
自動販売機で買った缶コーヒーを飲み、腹に力を込めた。
もう少し、頑張ってみようか。
気がつけば、外は空が白んでいた。
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