─ 防衛 ─

 陸の上を航行する方舟。

 名前も付けられていないその船のく先は一部の者にしか明かされていない。

 その船内の一室。避難民の居住区画としていた広間では。

「ねぇ、ぼくたち、どこにいくの?」

「へーたいさんたちはこないの?」

「おとーさんとおかーさんどこ?」

 まだ幼い子供たちが、引率する女性に問いかけていた。

「これからみんなが新しく住むところよ」

 そんな子供たちに女性は優しく語り掛ける。

「兵隊さん達はね、みんなを守る為に戦っているの」

「ぼくたちを?」

「そうよ。私たちが怖い怪物たちに襲われない様に、私たちを守ってくれているの」

 そう言い、不安そうな様子でいた子供たちを宥めていた。

 その横では。

「……お兄さま」

「イナコちゃん。大丈夫。お兄さん、凄いパイロットなんだよ」

「そうだよ。ザッソウを倒したエースパイロットじゃんか!」

「それでも……心配なの」

 黒髪の少女がうずくまり、そんな彼女を周りの少女達が励ましていた。

 彼女の『兄』が前線で戦っているらしい。

 彼女以外にもこうして気落ちする者がここにはいる。現状に理解ができる分、年長の者ほどそういうことに対して影響の出る者が多かったのだ。


 そんな時だった。

 衝撃が船を襲う。

 何事かと騒々しくなる船内。

 二度、三度。四度目の衝撃。

 右舷側の壁面が破砕される。崩壊と共に、壁に空いた穴から3m級程度の〈ザッソウ〉が入り込んできた。

「きゃああああああ!!!」

「いやぁぁぁあああ!!!」

 阿鼻叫喚となる船内。

「子供たちを守れ!!!」

 号令と共に大人達が小銃や拳銃を構える。しかし、当然ながら退避が間に合っておらず撃てずにいた。

「イナコちゃん!!!」

 そんな中で、だ。

 一人の少女が転倒してしまう。そこに〈ザッソウ〉が迫っていく。

 異形のバケモノが大口を開ける。今まさにそれは少女へと喰らい付こうとしていたのだ。

「────助けて、お兄さま……!!!」

 怯え竦んで動けなくなっていた。この瞬間にも今この場に居ない『兄』に助けを求めるとこしかできないでいる。

 そのアギトが少女を啄む、その直前だった。


「────はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 壁の穴から侵入した少年が、得物とした巨大な銃剣を叩きつけて仕留めた。その個体が撃破されたことで少女は難を逃れることになる。

「大丈夫ですか!!!」

 その少年が呼びかける。

「って……子供、ばっかり……」

 自分が言えた義理ではないが。そう思いながらもその場を把握する。

 この区画に居るのは100人程度。引率役であろう大人が数人と、自分と同年代くらいの子達も居るには居るが。ほとんど幼い子供であった。

「お、おにいさん、だれ……?」

 すぐ近くにいた黒髪の少女に問われる。

 所属とか言った方が良いかな、と思ったが止めておいた。

 『国際連合防疫軍 極東支局関東方面軍第三師団 機械化特殊歩兵連隊 第一攻勢戦隊第一小隊所属』

 そんな無駄に長い正式名称を言ったところで多分ちんぷんかんぷんだろう。

 そう思うだけの判断力はあったからだ。

「僕は夜套灯里って言います。第三新東京区ってところから増援で来ました」

「第三、新東京……!!!」

 近づいてきた女性が、彼の言葉に反応する。

「この船……車輌、ですかね? 今から僕が護衛します。皆さん、できる限り安全な所へ。あと、この子も」

 腰を抜かしたらしい少女をひょいと抱え、女性に託すと、得物を構えて船外に出ていこうとする。

「あぶない、ですよっ……!!!」

「無茶です!!! 生身の人間がザッソウの相手なん、て……」

 再び、穴から新しい個体が入って来ようとしていた。それに対して彼が自らの得物で射撃する。根核ごと胴体を穿たれたそれは骸と化して落下していった。

「大丈夫です」

 言いながら歩き出す。

「まだ成りたてですが。僕、グラスハンターですから」

 そう告げて、灯里は船外へと飛び出した。


 甲板の上を歩く灯里。巨大な車輌であるが本当に船の様な構造をしていた。

 船底部に無限軌道を施されている巨大陸上船。水陸両用で本当に船として使えるんじゃないだろうかとさえ思えてくる。

「っていうか、この船……対草抗装甲が施されてないのか!」

 本当に切羽詰まっていたんだろうな、と想像するのが容易かった。

 おかげで現に、高速で走れるタイプの〈ザッソウ〉達がこの陸上船へと集団で強襲してきていた。

 今動いている船の速度は時速約30~40km程度。最高速度が平均で時速160kmである〈グラスハンター〉であれば容易に追い越せる速度。

 大型でもそこまで強くないエノコログサ型が多いのが救いか。数は多いが速力と運動性に重点を置く傾向のある種類の彼らが主に襲い掛かってくる。

 増援が必要だ。そう判断して、灯里は通信を入れた。




『二重谷星さん、聞こえますか?』

 所変わって市街地では。歩兵部隊の損耗は四割を超え、〈PR〉部隊の損耗率が半数を超えようとしていた。

 そんな中、太陽の元へ灯里から通信が入る。

「あぁ?どうした新入りその1」

『脱出車両が出発しまして、確認したんですが護衛が見当たらなかったので今その援護に来てます』

「クソでけぇ船みてぇな奴か?」

『それです!』

 太陽もそれを横目で把握していた。

 話しながらも〈ザッソウ〉を屠っていく。今ので彼の討伐数は80に到達した。

「向かう先は何処だ?」

『それは……聞かされてないです』

「……信用ねぇな俺達」

 苦笑いをしていた。

『ですが進路から察することはできます』

「そうか」

 彼もまたそれを察していた。

「一人向かわす。お前は護衛してやれ」

『はい!』

 そこまで話して灯里との通信を切り、別の隊員に繋ぐ。

 相手は、三人の中で一番そこに近い奴。

「新入りその2、聞こえるか? その1を援護してこい」

 詳細な情報は腕輪のデバイスで共有している。だから指示を出せばいい。

 だが。反応がない。

「新入りその2、生きてるなら返事しろ」

 もう一度呼びかける。また、反応がない。

 やられた、というわけではない。生体反応がまだ残っているどころか、現在進行形で彼の討伐数は200を超えてなお上がり続けている。

「海波揚羽ァ!」

 痺れを切らして怒鳴りつける。

『了解』

 ようやく返ってきた気だるげな応答。

 同時に彼の反応は対象の方角へと向かっていった。

「さぁて、これで金稼ぎできるぜェ――――ッ!!!」

 確認して、太陽は群れの中へと突入していった。




「接近戦、苦手なんだよなぁ……!」

 弱音を吐きながらも、甲板に飛び乗ってきた一体に接近して銃剣で切り捨てる。

 銃身に直接電磁振動刀身を装備する〈スナイブレード〉であるが、これは電磁投射機構の追加速器を兼ねていると共に接近された際の保険として搭載されているものだ。

 元々接近戦を苦手としていた為に射撃武器を選択していた灯里もその保険としてこの武器を選んでいた。

 追ってくる個体は甲板上から射撃。取り付いた個体は斬撃で仕留める。

「増援、まだ来ないか……!!?」

 迫ってくるのは後ろだけじゃない――進行方向にも存在する。

 正面に大型の個体を発見した。あの個体は、ヒマワリか? 夜闇の中で遠目に確認する。

 甲板から飛び降り、地面に足を着ける。

「あのサイズなら収束射撃チャージショットで!!!」

 斥力場で反動を軽減しながら、強化した一撃で目標を狙い撃つ。

 軽減してなお足元に小規模なクレーターを形成した一撃は、根核を射貫き爆散させた。

 跳躍して甲板に戻る。着地の衝撃を斥力場で緩和し、腰のベルトから弾倉を取り出し再装填する。

 何とか持たせる。そう意気込む。

 だが。

「君ッ!!?」

 状況に唖然としてしまう。

 先程助けた少女がいた。歩兵用の小銃を構えて。

「お兄さまも戦っているんです! だから、私も……!」

「無茶だよ! 歩兵用の武器でザッソウに勝てるわけが……ッ、もう来た!」

 新たな個体が現れる。5m級の個体だ。

 少女が射撃する。

「曳光弾……!」

 夜間戦闘用の弾倉なのだろう、曳光弾が入った弾雨がばら蒔かれる。

 大したダメージはないが、怯んだ。

「お兄さまが言ってた。光や電気に弱いって!」

 銃身の下部に備わったグレネード投射器からも射撃する。

 発射してすぐに破裂し、電極が混合している特殊なジェルが胴体に付着すると〈ザッソウ〉が痙攣し始めた。

 電撃榴弾テーザーグレネードという代物だ。

「意外に戦えてる……!」

 〈グラスハンター〉が居ない状況でこそ発達した戦術なのだろう。それ自体は決定打こそ欠けるが、仕留める火力を持つ者が確実に仕留める為の足止め戦術。

 それにまんまと拘束された相手に灯里がトドめを刺す。

 彼女が〈グラスハンター〉になったら化けるか、などと楽観的なことが浮かんだ。そんな時だ。

「危ない!!!」

 突然、空中から飛翔してきた何かが彼女へと襲い掛かった。それに対し彼女が電撃榴弾を放つも、それは浴びせた電撃を無視して襲い掛かる。翼を羽撃たかせたそれが振りかざした脚から彼女を庇う。

「――――がぁっ……!!!」

 左目にもろに攻撃を喰らった。

 咄嗟に銃剣で切り裂き、蹴り飛ばす。だが。

「い、痛い……見え……!!!」

 完全に集中が切れていた。練度が足りなかったせいもあっただろう。位相転移が間に合わず左目を切り裂かれた。

 血が溢れる。

「だ、大丈夫……!!?」

「僕の事はいいから逃げてッッ!!!」

 余裕が無くなり怒鳴る様な声で叫ぶ。

 背後に彼女を庇いながら、残った隻眼ミギメで正面を睨みつける。

「まだ来る!!!」

 先程の個体がまだ生きていた。10m級――ホウセンカ型とされる個体。先の斬撃は胸部に薄く切創を作るのみに留まっていた。

 少女を庇いながら得物を構え銃爪を引く。しかし、放った弾丸は横を抜け外れた。

 機動力に特化した敵。短時間であれば飛行も可能。甲殻の強度も高い。

 一方の灯里は。視界が狭くなり照準が定まらない。痛みから身体が震え、ブレが生じる。焦りから斥力場も安定しない。

 何もかもが最悪。それでも撃つ。二発、三発、何度でも。

「死ねない!!! 死ねないんだよ!!! 僕は、こんなところで!!!」

 連射する。精度が甘い今の状態では数撃っても大したダメージにならない。

「僕がやらなきゃ、みんな死んじゃう……家族もいるんだ、僕には!!!」

 彼は脳裏に浮かべていた。〈第三新東京区〉に居る家族を。

 父親に先立たれ、長男として母と弟妹を養う為に国連軍に入った。士官学校から要職に就く事もできたが、家族を守りたい意志で適正を認められていた〈グラスハンター〉になる選択をした。

 死ねない。死ぬ訳にはいかない。

 だが。

 自らが生き残る為にこの船の人達を放り出せない。

 そんな真似して生き延びても合わせる顔がない。

 だから。

「うぉおおおおおお――――!!!」

 吼える。

 逃げられないくらいなら抗おうと。

 得物を構える。狙いはその胸部――根核を目掛けて。銃爪を引いた。

 ――結果は。

「畜生ッッ……!!!」

 弾切れ。

 錯乱して撃ち過ぎた。

 その隙を逃さないとばかりに。翼を広げた鳳凰が、死を告げるが如く両脚を振り翳す。

 終わった。そう思った。

 その爪が迫る。

 せめてこの子だけでも。

 名も知らない少女を庇うので限界だった。

 目を瞑る。

 次の瞬間。



「――――目ェ塞げェッッ!!!」



 咆哮が響き渡った。

 咄嗟に目を庇う。

 刹那。

 凄まじい閃光と共に、瞬間的な刺激を感じた。

電光手榴弾スパークグレネードか……!!!」

 破裂すると共に閃光を放ち、同時に発生する一定周波数の電磁波がまき散らされる。人にとってはピリッと刺激を感じる程度であるが、それを浴びせられた〈ザッソウ〉は電磁波の干渉により身体機能が阻害され、痙攣を起こす形で麻痺させられる。

 一体誰が、と灯里が思考を巡らせる間もなく、機械仕掛けの咆哮が響き渡る。


「――――ハァァァアアアアア!!!」


 その担い手もまた咆哮を上げ、勢い良く躍り出た彼はその勢いのままに喰らい付い斬り付けた。

 振るった刀身アギトはその質量で甲殻を破砕し、回転する鎖状のキバが齧り付き噛み砕いていく。

 一撃で左右に真っ二つに両断おろされ、沈黙するホウセンカ型。

 その様に灯里の背後で唖然としていた少女。灯里もまた安堵から尻餅をついていた。

 残った片眼でその姿を視野に映す。

 夜闇に溶ける黒鹿毛色の髪。月夜に照らされる白い肌。無駄に目立つカーキー色の上着。蒼と紅の双眼。

 何より目立つのは。得物として携える巨大な鎖鋸〈チェインブレード〉

「大丈夫?」

「海波、くん」

 あっけらかんとした表情で手を差し伸べた。

 その手を取り、立ち上がる灯里。すると。

「えっ、ちょ……」

 困惑する灯里をよそに、揚羽はそのまま彼を抱擁する。

 少し前のめりになり、彼の胸に顔を突っ込む形になった。左眼からの血で汚れるのも構わずに。

「一人で、良くがんばったな」

 そんなことを言いながら、灯里の頭を撫でる。

「男に、いい子いい子されても……」

「落ち着いたろ」

「……何とか」

 軽口程度の苦言を返しながらも。自分が震えていたことと同時に震えが収まったのを感じている。

「あと30分だ。気張れよ」

「……うん」

 灯里の返事に微笑み返すと、少し後退して揚羽は〈チェインブレード〉を手に取る。

「じゃあ────」

 慈母にも似た彼の柔和な笑みは。

「――――行くかァァァッッ!!!」

 得物の追点火と共に反転し、餌を目にした餓狼の如く猛り盛った。

 一度船に配慮して軽く跳躍すると、斥力場で空中に足場を生み出して勢いよく飛び出す。

「あぁ、やってやる……!!!」

 弾薬を再装填し、隻眼で睨み付ける。

 あと三十分。先程揚羽に言われたその言葉の意味。

 〈第三新東京区〉――彼らの所属する本拠地。

 この船が向かう先がまさにそこであり、その最外郭対ザッソウ装甲壁の対草抗効果範囲に辿り着くまでの時間。

「これでも、僕は────僕だって、草を狩る者グラスハンターだッッ!!!」

 追点火し、咆哮を上げた。




 気が付いたら朝日が上っていた。


 結論から言えば作戦は成功したといえるだろう。


 避難民の輸送車輌ハコブネが防衛圏に到達するのと同時に。来た方角の延長で巨大なキノコ雲が発生し、直後に〈第四新東京区〉壊滅の報が届いた。




 その〈第四新東京区〉跡地では。

「ブハァ――――ッ!!! クッッセェぜ、全く!!!」

「うっひゃぁ……服汚れちゃったよ」

 炭化しかけの瓦礫の山から這い出てきた太陽と青葉が悪態を付きながら衣服の煤を叩いていた。

 防御姿勢で斥力場を全力で展開することで、街の自爆をやり過ごしていた。

「本当に更地にしやがったな」

「気化爆弾の起爆って聞いてたけど、街の中心の反応炉も爆破してるね」

 しゃがみ込み、足元に転がる何かに触れる青葉。

 炭化したそれは、何だろうな。

「ボクら、放射線も無害化できるからいいけど。これじゃしばらく住めないね」

 青葉がそうは言うが。これが人が住めないどころではない事くらい、最前線で戦う彼らにはわかる。

 近い将来、この更地は〈ザッソウ〉の温床と化すだろう。

「いいじゃねぇかよ」

 その言葉を返す太陽。

「増えてくれりゃ金になるぜ」

「またお金の話……」

 好きだねぇ、なんて、他愛無い話を続けていたら。迎えにきたヘリを確認する。

 先に帰還した揚羽と灯里は通信越しで彼らの安否を知る。

 この作戦の結果から〈グラスハンター〉の有用性が証明され、世界各地の国連支局統治地区で軍属部隊が編制されることになった。









「――ゲハ……アゲハ……」

 誰かに呼ばれた気がした。

 気が付いたら眠っていたらしい。

「揚羽」

「んっ……」

 目を開く。

 目の前にいたのは、夢の中で見た姿より少し大人びた姿の同期だった。

「もうすぐ着くよ」

「……了解」

 前髪をかき上げ、一息吐いて答える。頭上で彼が手を放すと。伸びた前髪は重力に引かれ、色の違う眼を分ける様に顔へと被せられた。

 双色の眼が見据える、季節外れ感のある古ぼけたコートを身に纏った灯里。

 気温に左右されずに体感温度を一定で保てるから春夏秋冬に衣服を合わせる様な真似をしなくていいとはいえ。母親からの祝いの品であるそれは彼が毎日身に纏っていた結果、色褪せて黒色から暗褐色に変わり、裾が所々擦り切れていた。

「珍しいねぇー、アゲハ。太陽の運転で寝てるなんて」

「あぁ? 多少はマシになったぜェ……っつーか装甲壁カベの外なんてほぼ不整地だろ、誰が乗っても同じじゃねぇか!!!」

「あっははーw、言えてるw」

 横から話しかける青葉。それに運転席から突っかかる太陽。

 四人は近場での任務からの帰路であった。

「なぁ、灯里」

 ふと呟く揚羽。

「左眼、大丈夫か」

「……まだ寝惚けてる?」

 問われた言葉に少し戸惑う灯里。彼の左眼には眼帯が付けられている。

「いや。聞いてみただけだ」


 あの戦いから三年が経過した。

 初陣となったあの作戦では一等兵だった二人の階級は、今では揚羽が准尉で灯里は少尉だ。戦果に対して日頃の行いのせいで階級の低い太陽(軍曹)と青葉(伍長)を超えている。


 軍属グラスハンターとして、基地に戻るとやることがある。

 その1、移動に用いた車輌の返却。

 その2、〈草狩機〉を格納庫に預ける。

 その3、エントランスに向かい事務手続きを行う。

 それらを淡々と忠実に実行していく。

「任務完了、確認しました。お疲れ様です」

 担当していたオペレーターにそう告げられる。

 ブリーフィングを終えた、そのタイミングで。

「お兄さまー!」

 灯里の背中に飛びついた人物がいた。

「おうふっ……もうメディカルチェック終わったのか」

「うん!」

 いつぞやの少女。あの後、灯里が後見人となり彼の実家で世話になっていたという話を揚羽は聞いていた。

「久しぶり」

「あー、あん時の女の子? 大きくなったねぇ!」

 揚羽と青葉も挨拶する。

「いや、でかすぎんだろ……」

「何か」

「いや気にすんな」

 少女の顔の下一点を凝視してぼやき、隻眼の眼光に睨まれて明後日の方に視線を逸らす太陽。

 そんな少女は、一度シャキっと姿勢を正し、四人に敬礼する。

 まだあどけない容姿ながら、軍の制服を着た姿。首から下げられ、彼女の胸に乗っかるドッグタグ・ネックレス。

 そんな彼女の左腕には彼らと同じ腕輪があった。


巴音流伊奈子ハネナガ イナコです。今日からお世話になります!」

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GRASS HUNTER ─草を“狩”る者─ PRELUDE 王叡知舞奈須 @OH-

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