飛び石と泥炭

 あまりにも面白くて一気読みした。

 登場人物各自の記憶はあやふやなうえに保身と欺瞞(ぎまん)に満ちていて、広大な湖を渡るのに飛び石を伝わねばならないようなもどかしさと知的軽快さを要求される。しかし、その行為自体が実に楽しい。時にはわざと踏み外し、水中に転落してから泳いで手近な飛び石にしがみつくのも一興。

 本作最大の特徴の一つに、誰一人として自分の行為に罪悪感を抱いてない点にあるだろう。だからといって過去からは逃れられない。まるで、くすぶりながらもしつこく燃え盛る泥炭のように。粘りつく植物の残骸は、青い彼女の髪かもしれない。

 衝撃の結末も含め、大いに堪能した。

 必読本作。

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