デスゲームで本当にあった怖い話

ニャルさま

第一章 尾野寺伝吉@クソジジイ

尾野寺伝吉の語り その一

第一話 伝吉、語リ始メル

 おう、俺は尾野寺おのでら伝吉でんきちってんだ。ああ、さっき名乗ったな。すまんね、年齢トシのせいか、物忘れが多くていけねえ。

 ま、見ての通りの隠居した年寄りよ。


 どこから話し始めるのがいいかな。そうそう、あの話がいいな。

 俺はよ、隠居する前はヤクザの組を率いていたのよ。ああ、それよ。ヤクザの組長。大親分とも言うわな。

 で、その事件が起きたのは俺が先代から組を引き継いだ時だったよ。


 え? 何の話だって? 若い奴はせっかちでいけねえなあ。

 もちろん、今回の事件のことを話すつもりだ。だけどよ、物には順序ってものがあらぁ。今回の問題を解決するためには、これから話す出来事が必要になるんだよ。


 俺が組長になって最初にやったことは、先代オヤジの葬儀だった。式は静粛に執り行われた。と言いたいところだけどよ、そうはいかなかったんだ。

 オヤジの遺体に線香を送る際によ、体調が悪かったのか、緊張したのか、ゲロを吐いた奴がいるんだよ。ほんと、最悪だよな。そんな話、聞いたこともねえよ。

 で、その最悪なことをしでかした奴がよ、あろうことか、俺の子分だったのよ。俺はほとほと呆れ切ったね。


 でもよ、「呆れた」で済む話じゃあねえ。ほかの組の組長連中、叔父貴たちがいきり立つのよ。神聖な葬儀を汚した奴のタマを取れってさ。

 さすがに殺すなんてできねぇよ。盃交わした子分だもの。でもよ、何もしませんでした、じゃあ収まりはつかねえ。

 そいつにはエンコを詰めてもらうことにしたよ。


 オヤジの仏間でよ、エンコ切ってもらうことになった。オヤジに無礼働いたんだ、仏さんのいる部屋で反省を表してもらうのがいいんじゃないかってな。

 道具モノ持ってよ、一人で仏間に入っていった。だけどよ、やっこさん、出てこないのよ。どれだけ待っても、仏間から出てこない。こりゃ、ビビり散らかして、ブルってんかな。そう思ったよ。

 それで、覗きに入ったんだ。すると、どうだ。あいつめ、いなくなっていたよ。


 逃げたな。これには、さすがの俺もいきり立ったね。ほかの子分たちも怒り狂っていた。叔父貴たちに対しても面子メンツが立たねえ。

 俺たちは逃げた子分を必死で探したさ。ほかの組の連中にも指名手配してよ。

 だけど、見つからなかった。行方はヨウとして知れなかった。


 こんなことあるか? そう思ったね。

 街中のヤクザが血眼ちまなこになって探して見つからないんだぜ。公共機関も調べたし、車の出入りも調べた。これで高跳びなんてできるはずがないんだ。

 ついには、オヤジが直接地獄に連れていった。そんな結論になったんだ。

 いや、まあ、俺が流した噂なんだけどな。こうなったら、怪談にでもしねぇと、収まりがつかなかったんだよ。叔父貴たちも古い連中だ。怪談にはからっきしな奴らばかりさ。噂をさりげなく流したら、ビビったのか何も言ってこなくなった。


 だけどよ、無理くり事件を終わらせたと思った時だよ。オヤジの仏間から妙な物音が聞こえたんだ。それは呻き声のようだった。

 ヤクザの事務所にコソ泥でも入ったってのか。そう考えた。俺は子分たちを引き連れて、仏間に入ったんだ。

 そしたら、いるじゃねえか。逃げたと思った奴がよ。本当にオヤジに連れられて地獄でも見てきたのか。そんな風にさえ思えた。


「オヤっさん、すみません、ちょっと時間かかっちまって……」


 奴さんはそんな風に言うんだ。

 まったく、ふざけている。今まで何やってたんだ。

 そう思ったんだけどさ、奴さんの姿をまじまじと見て、絶句したね。


 奴さん、腰から下がないんだ。下半身が丸々ない。

 それなのに、喋るし、動いてるんだよ。血も出てはいない。不気味だったねぇ。


 さすがの俺も動揺して、こう言っちまったよ。


「おい、エンコ詰めろって言われて、下半身丸々詰めてくる奴があるか」


 おっと、言い忘れたな。奴さんの名前は寄見頑人よりみがんと。頑人の野郎は「デスゲームに参加していた」なんて言い始めたんだ。

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