台詞のみでも感情が溢れる、SF遠距離恋愛ストーリー

『音声化短編コンテスト』の応募作ということで、主人公『萌衣』の視点で綴られる、台詞のみの作品となっています。こういう形式は『台本小説』や『台詞のみSS』などとも呼ばれ、本格的な小説を書き始める前の段階として、見たことがあったり慣れ親しんだ人もいるかと思います。

しかし本作はそうしたシンプルな表現方法でありながら、『お兄ちゃん』と会えない萌衣の寂しさや迷い、それでもお兄ちゃんに向け続ける健気で深い愛などが、情感たっぷりに伝わってくる作品でした。地の文が一切ないのに、恋愛短編小説として高い完成度を誇っているのはお見事です。
その中で断片的に語られる『階層』や『治安警察』などといった単語から、近未来であり強固な管理社会であることも察せられます。『田舎と都会』や『日本と外国』といった次元ではない、SFチックな遠距離恋愛という部分においてもオリジナティがあって良かったです。そんな環境でも二人の消えることのない愛情や、萌衣の過ごした時間や努力が実を結んだラストは、とても感動的で幸せな物語だと感じました。『次世代の遠距離恋愛ストーリー』という感じがしましたね。

ただ、世界観や設定の説明をちょっとボカし過ぎている気がして、「どういうことなんだろう?」という疑問符が終盤までずっと付いて回り、せっかく素敵な物語なのに100%は没入できないのが、非常に勿体ないと思いました。
しかし台詞のみで説明しようとすると冗長になってしまい、それに世界観を細かく解説するのが主題ではないのですが……。それでも『二人は会えない状況にいる』という部分を、もう少しだけ分かりやすく強調できていれば、更に万人受けする物語になったと思います。まぁ『コンセプトを貫く』ことと『誰にでも分かりやすく書く』ことを両立するのって、メチャメチャ難しいんですけどね……。

とはいえ、この物語が声優さんによって声を吹き込まれたのなら、心に残るほど素敵で素晴らしい作品になると思いました。面白かったです!

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