第16話 異変・異形・別れ


2日半程で着いた場所は砂と岩ばかりの暑苦しい場所で、この場所の名前を聞くと【ガラパ砂漠】と教えてくれた。この砂漠は急ぎの商人か冒険者ぐらいしか通らない為、野生動物やモンスターが多種族棲息しているらしい。


「あの兎みたいなモンスターはなんですか?」

「みたいじゃなくて肉食兎よ。集団で巣穴に暮らして数で獲物を仕留めるから、見かけたら近寄らないようにするのが常識よ」

「エリナさんって博識ですよね。」

「冒険者になる為にモンスターや国の周辺を色々調べたのよ。寧ろ何も知らないあんたはなんで知らない事が多すぎるのよ…帰ったら図書館で勉強ね」

「そ、それにしても暑いですねぇ〜」

「話を逸らさない!」


小言を言われながらサンドアイスを探すために歩きだす。するとサーシャがぐずり始めたので降りると、どうやら暑かったらしくハァハァと息を吐いている。仕方ないので水を与えて岩陰で休息を取る。

岩陰に入ると、何やら岩の反対側から異臭がするのでエリナにサーシャを任せてそちらに行くと、所々砂が凹み岩が砕けて青い液体が飛び散っている光景が広がっている。

何か大きなものがここで暴れたのだろうが既にその姿は無い。エリナを連れて来てこの光景を見せると


「砂に凹みがあるから多分お目当てのサンドアイスが地中から出てきて暴れた跡なんだろうけど、姿が見当たらないわね。それに多分だけどこれはサンドアイスの返り血だと思う。でも死骸が見当たらないのは間違い無く異常だわ」

「さっきの兎か他のモンスターが食べた可能性は?」

「この暑い中で血が乾ききって無いからついさっきの事だと思うからそれは無いと思う」

「サンドアイスよりでかいモンスターは?例えばドラゴンとか」

「この砂漠で1番大きい個体は今の所サンドアイスよ」


明らかな異常事態の為に1度ギルドに帰って報告するべきなのだが、シグはサーシャを連れて先に進もうとしていたので、エリナから説教を受ける


「あんたね!こんな異常事態の中でどうして進む選択肢ができるのよ!」

「サンドアイスよりその分からない何かを斬ればいいかなって」

「いいかなじゃないの!あんたが強いのは知ってるけど、まずはーーー」


エリナの説教を受けていると、少し遠くの方で大木が倒れたような音と共に砂が高く舞っているのが見えた。目を輝かせ走り出すシグとサーシャに怒りつつも追いかけるエリナはため息をついていた。


砂が舞っていた場所に着くとまず目に入って来たのは巨大な芋虫である。これがサンドアイスかぁ〜なんて眺めていると、頭の方に青い塊がある。返り血を浴びていて一瞬分からなかったがどうやら子供のようだった。

子供を見つけてすぐに駆け寄るエリナ。近寄って抱き上げようとしたエリナが固まったので、シグも近寄ろうとした次の瞬間エリナの背中から腕が生えた。正確には生えたように見えた腕はどうやらお腹側から貫通しているらしく、それだけで致命傷なのがわかるとすぐにシグは距離を詰め寄ったが、エリナの身体がこちらに投げ飛ばされたので受け止める。


「…げて」

「エリナさん、喋っちゃ駄目だ!!」

「逃げ…て」


エリナは血を吐きながら逃げろと伝えて来た。原因はあの子供だと分かるが一瞬目を話した隙に姿が見えなくなった。すると急に影がさして真上から殺気を感じて慌てて横へと回避する。そこに降り立った者の姿を見てシグは表情を厳しいものに変える。

額から鼻の中心にかけて目玉が乱雑に生えており、唇は三日月の用に大きく裂けて牙を剥き出しにした人の形をしたがこちらを振り向いた。

抱えて逃げる事は難しいと考えてサーシャの背中にエリナを乗せ、ありったけの薬をかけて避難させる。それを待っていた身体付きが少年らしき異形は


「……貴様完成型か?」

「なんの話ですか?」

「魔石を感じないが心臓の辺りに結界魔法を感じるな、、、そして臭いが同族そのもの、、もしかしてオリジナルの生き残りか?だが昔オリジナルは全て【黒鉄クロガネ】の派閥に全て破壊されたと聞いたが…」

「さっきから何をぶつぶつ言っているんだ?攻撃してこないならエリナさんを治す為に僕はーー」


話の途中で異形の少年が爪を伸ばして攻撃して来たので爪を切り落とした。少年はおぉ、と感心したように言うと後方に飛んで距離を取る。


「僕の爪を切るとは驚いたよ、良い剣と腕を持っているね。欲しくなってきた」


涎を垂らしながら少年が砂に顔を付ける。今の内に首を切り落とそうと思ったが、少年の下の砂がごっそりと無くなって少年の頭が大きくなっていくのが見えて、今度はシグが後方へと距離を取る。

少年が顔を上げると顔が岩のように巨大にかしてこちらに向けて砂を吐き出した。刀では受けきれないので横に躱すが、吐かれる砂の量が多く視界を遮られてしまう。


「この砂埃は僕の魔力を含ませたので魔力感知は無駄だよ。さて、じっくり料理させて貰うか」


少年が余裕たっぷりの声でそう告げると、シグの左肩の肉が抉れた。痛みで顔を歪めると少年は笑い声を大きくする。


「良いねぇ!苦痛に歪む表情は最高だ!だがそろそろ帰らなきゃあいつに怒られるからね。もう食べちゃうよ」

「やってみなゲス野郎。次は斬れるぞ」

「はは、恐怖で口調が変わってるよ?本性は見た目に反して野蛮なのかな?お嬢さん!!」


シグが構えを取って静かに目を瞑った直後、足元の地面が大きく凹み、シグが飲み込まれそうになるが刀を抜き、振るった音すらも置き去りにして少年の下顎が切り裂かれ、叫びながら地面から身体を出してじたばた暴れている。


「なへわかったんらぁ(なぜ分かったんだぁ)!!!なへーー」

「気配を消してもいないし空気の揺れや地面の振動で場所がバレバレだよ。あと僕は魔力探知なんか使えないし、ついでに言うと男だよ」

「クソがっ!まだ、まだ負けてなんーーー」


言い終わる前にシグが刀を抜き、首を切り落とす。これをギルドに持っていけば証拠になるだろうと外套に包んで、急いでエリナの元へ向かう。

だがエリナは既に虫の息で、傷口が壊死していくのが分かる、毒か何かだろう。シグは治癒魔法の類いが一切使えないので、サーシャに手紙を咥えさせて先に近くの村へ向かわせようと思ったが


「シグ……いる?」

「えぇ、ここにいますよ」

「私、もうダメだから…最後に…言いたいことがあってね…」


目が見えて無いのかシグの声がする方に手を伸ばしてシグを探す。その手を取ってあげると


「好き…だったよ……シグの事好きだった」

「もう喋らないでください」

「あんな…化け物に殺されるの……やだなぁ。痛いよぉ…」

「……」


好きと言われたが、それが家族への好きや友への好きとは違うのだろう、この状況でシグはそんな事を考えていた。


「最後のお願い…聞いて」

「はい、なんですか?」

「痛くて…苦しいから……楽にして欲しい…な」


刀を抜き、エリナの首が飛ぶ。シグは初めて家族を亡くしたのだが。涙も流さずただ言われたように楽にしてやり、死を弔う為に上着でエリナの頭を包み、腐らないように氷魔法で覆う。


人は死を弔う為に火葬をするのだと昔師匠に教わった。人として最低限の事をしておけば周りに変な奴だの感情の無い化け物だと思われないとも教えて貰った。身体は腐るのが早く、持ち帰れないがせめて頭だけでも家族に届ければ、人として最低限の事だと思った。

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冒険者稼業は大変です。 語部 倫太郎 @Gobulin-King

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