【DX文庫二次落ち】~武器と魔法と学園バトルラブコメ~世界初の男性Aランク魔術士候補生の少年は自らの運命に翻弄される。

あーるろくろくろく

第一章 イギリスお嬢様とメイド

1話「少年は学園に立つ」

「ああ、本当に俺は今日からここに入学するのか……?」


 桜が舞い吹雪く四月。新たな生活や入学という輝かしい時期に一人の少年【白戸望六しろとのぞむ】はバッグを背負って、とある学園の校門の前に佇んでいた。


 ……そして望六がそのまま棒立ちしていると、周りからはそれを物珍しそうに見てくる多数の女子達が居た。皆一様に同じ様な制服を着ている事からこの学園の生徒なのだろう。


「しょうがないぜ望六! 俺達はここに入学しないとがないんだから!」


 望六の暗い気分とは対照的に、元気な声がよく似合うこの少年の名は【宮薗一樹みやぞのかずき】中学一年の頃から望六とは親友の間からで、見た目は爽やか系イケメン少年だ。

 

 身長は高く、髪型は黒髪で短め、何よりも表情全体から元気な雰囲気が伝わってきて周りの人も自然と笑顔にさせる。そんな力を持っていそうな少年なのだ。


 ちなみに一樹は、中学の頃に同学年の女子全員からラブレターやチョコが貰えるほどの超モテる人物だったりする。


 そしてある時は一緒にチョコを消費するのを手伝ってくれと泣きながら言ってくる一樹が望六には哀れに見えて、彼は苦手な甘い菓子を泣きながら一緒に消費した苦い思い出もある。


 それと一樹と望六には、とある共通点があるのだ。

 寧ろそれがなければここまで相棒や親友といった信頼関係までにはならなかっただろう。


 それはずばり、望六と一樹には両親が居ないと言う共通点だ。

 望六は幼い頃に【柳葉家】と言う日本ではその名を知らない程に有名な魔術士の名門に引き取られ今の歳まで育てられたのだ。それ故に望六には魔術関係の知識が意外とあったりする。


 そして一樹には【宮薗七瀬みやぞのななせ】と言う日本最強の魔術士の姉が居て、二人で何とか今まで生活していたらしい。更に七瀬は現代の魔術社会での一人として認識されているのだ。

 

 その理由は至って簡単。それは魔力適性と実力が桁違いだからだ。

 まず、魔力適性とは魔力ランクの事で【S・A・B・C】と分けられていて、七瀬はその中で一番高いSランクを持っている世界でただ一人の存在だ。


 次に実力だが、今や日本……いや世界でも知らない人はいないであろう魔術士同士の戦いを行う有名な大会、そう【Duel of World witch】通称【DWW】の第十六回優勝者なのだ。


 しかし不思議な事にDWWの第十七回を機に引退してしまい、表の舞台からは姿を消したのだ。

 その理由は今でも明かされてなく、世界の謎の一つとされている。


 そんな世界最強の一樹の姉は日本を諸外国から守るべく国の戦略級魔術士となっていたが、つい最近それを辞めての教師になったと望六は一樹から聞いた事があったのだ。


「そりゃそうかも知れんけど……。正直、女子達からの視線が予想以上にきついぞ……」


 望六は一樹の言葉に弱々しい声を出しながら返事をした。

 だがそれもその筈、先程から女子達がすれ違う度に望六に向けて奇怪な視線を送っているのだから。


 ――そして女子達から異様に奇怪な視線で見られている白戸望六とは、アニメとラノベが大好きな普通の高校生になる筈だった者だ。

 

 ……この言い方だと普通の高校生じゃないと思われるかも知れないが、事実そうなのだ。

 望六と一樹は普通の高校生ではないのだ。そしてこの学園はその事にも大きく影響している。

 それは順を追って説明するのならば、二月の受験シーズンにまで遡る事になる。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆



 二月の二一日。その日の朝は特に何ら変わった事はなかった。

 試験の時間に間に合う様に望六は起きて、可愛い妹達と他愛のない雑談をしながら朝食を食べて時間を調整してから家を出た。


 彼はそのまま近くのコンビニへと向かうと、凍てつく冷たい風を顔全体に受けながら一樹を待っていたのだ。

 

「まったく、まさか一樹と受験先が被るとはな……」

 

 白い息を吐きながら呟くと、望六はスマホを起動して時刻を確認した。

 まだ試験時間には全然間に合うのだが、如何せんこの待っている時間と言うのは苦痛だった。

 それと彼が言っている通り、何故か一樹と受験先が被ってしまったのだ。


 別に親友だからとか、仲良しこよしで一緒に受ける訳ではない。

 本当にたまたま偶然にも被ってしまったのだ。


 ちなみに望六がその受ける高校を選んだ理由は、地元の就職に有利だからと言う安直な理由だ。

 いつまでも柳葉家で居候している訳にもいかなく、手っ取り早くそこを選んで自立しようと望六は考えているのだ。もしかしたら一樹も彼と似たような理由なのかも知れないが。


「あーっ寒いな。一樹のやつ一分でも遅れたら缶コーヒーホットを奢らせてやる……」


 望六が寒さに震えながら小言を漏らすと、タイミングを見計らったかのように彼の目の前には手を振りながら走り寄ってくる人影が居た。


「おーい望六ー! 遅くなってすまない! 時間ギリギリまで勉強してたら寝坊しかけたぜ!」

「お前……もしかして一夜漬けに賭ける気なのか?」

「ああ、無論だ! 俺は社会基礎をばっちり暗記してきたぜ!」


 一樹は息を荒げながらそんな事を言うと、望六は次にどんな言葉を言うべきか悩んだ。

 何故なら一樹が勉強してきたと言う社会基礎は試験科目には入っていないからだ。

 

 恐らく似たような政治基礎と間違えたのだろう。

 こう見えて意外と一樹は抜けている部分があったりするのだ。


「なあ一樹よ。意気揚々と話してくれた所すまないが、試験科目に社会基礎は入ってないぞ」


 望六は一瞬黙っていようと思ったが、こんな寒いコンビニの端で待たされた些細な仕返しと称して伝える事を選んだ。


「…………えっ」


 一樹は望六からその残酷な言葉を聞くと、肩に掛かっていたバッグの紐がずるっと落ちていった。そしてこれは外が寒い影響なのかは分からないが顔面が蒼白になっている。

 それはもう舞妓さんも驚く程に真っ白だ。

 

「まあ、とにかく会場に向かおうぜ? こんな所でじっとしていも寒いし、早く付けば多少なりとも勉強できるかもだぞ?」


 望六は寒いから早く試験会場に向かいたく、一樹にそれとなく理由を付けさせて歩かせようとした。でないと一樹は暫くの間、顔を蒼白させたまま動かないだろうと何となく彼は悟ったのだ。


「あ、ああそうだな……。まだ試験が終わった訳じゃないもんな! まだ希望ある筈だ!」


 するとそれは見後に効果があり、一樹は蒼白な表情から血色のある表情へと戻し握り拳を空へと掲げていた。その彼の持ち前のポジティブさは望六も素直に認めている所だ。

 ……逆に言えばただの単純だが。


 ――それから試験会場へと望六達が到着して指定された席に荷物を下ろすと、


「なあ望六! どうせだったら試験始まるまで少し見て回らないか? もしかしたら入学する場所になるかも知れないし!」

「それは別に構わんが……。あと十分しか時間ないぞ?」

「なら尚更はやく行こうぜ!」


 妙に興奮している様子の一樹に誘われるがままに、望六は残り十分と言うギリギリの学校見学が始まった。というより一樹は一夜漬けの山を外しているのだから残り僅かな時間でも勉強に当てた方がよかったのでないかと思うが、きっと今の一樹には何を言っても無駄だと望六は黙った。


 そして二人はうろうろと校内を徘徊していると、望六は目の前に魔力適性試験会場と書かれた看板が置かれてる部屋を発見した。当然それは隣に居る一樹も見えている訳で、


「魔力適性? なんだそれ?」

「なんだ知らないのか? まあ、男なら知らなくても良い事だけどな」


 一樹が看板と睨めっこしながら呟くと、望六は肩を竦めながら返した。

 だが魔力適性と言う言葉を見て、疑問に思うのは至極当然の事なのだ。

 

 何故なら魔力とは本来女性に宿る物とされているからだ。故にこの世界の魔法が使える者=魔術士達の多くは女性だ。しかし極稀に魔力を持っている男性も居る……居るが、それは砂漠の中から砂金を探すようなものだ。


 それと何故この普通の高校に魔力適性が儲けられているかと言うと、それは単純に全国の女子が受けるからである。だから普通の高校を適性会場として場数を増やして流れを良くしているのだ。


「うーむ。見た感じだと俺達でも受けれそうだし、記念に受けてみないか?」

「一体何の記念だよ……」


 一樹は手を顎に添えながら徹夜明けの顔を見せながら言うと、望六はスマホをポケットから取り出して時間を確認した。試験開始時刻は八時三十分からで今はまだ八時二五分。


 見ればまだあと五分は残っている……がしかし、こんな所で時間を要していたら肝心の試験が受けれなくなってしまうだろう。

 そう思うと望六は一樹を引っ張ってでも会場へと連れ戻そうと手を肩に伸ばしたが、


「なんだお前達、ここは魔力適性を測る会場だぞ。冷やかしに来たならとっとと帰れ」


 突然横から辛辣な言葉を掛けられた。


 思わず望六達は声のする方へと顔を向けると、そこには洋紅色のツインテールをした気の強そうな顔をしている女性がコンビニ袋を提げながら立っていた。

 見た目から推測するに二十代前半と言った所だろう。


 恐らくコンビニで買い物をして戻ってきて、たまたま望六達と鉢あった感じだ。

 よく見ると腕には魔力適性試験官という腕章が付けているのだ。


「なっ!? つ、ツインテールだと……!!」


 だが望六はそれよりも生のツインテを見た事により生粋のアニオタの思考が働き、やはりツインテールは気の強い女性の現れと言う持論を脳内で展開し始めていた。


「私の髪型なんぞどうでもいいだろう。それよりも、ここは魔力適性を測る場だ。男は関係ない、早々に立ち去れ」


 望六が不意に漏らした言葉にツインテの女性は目を細めて反応したが、直ぐにこの場から退く様に再度言ってきた。まるで望六達がこの場に居るのが邪魔だと言わんばかりに。


「あ、あの! 冷やかしとかじゃなくて俺達も魔力適性を受けたいです! お願いします!」

「えっ!? ちょ、望六何を言って「黙っていろ一樹」……」


 望六はツインテ女性の目を見て本当に適性を測りに来たと思わせるような意思をみなぎらせて言うと、横から一樹が何かを言おうとしたようだが彼が透かさず手で口を封じた。


「冷やかしではなく本当に魔力適性を測りに来ただと? …………ふっ。そんな奴はこの仕事をしていて初めて見たな。よし良いだろう、特別に受けさせやる。だが適性が無いからと言って泣くなよ?」


 ツインテ女性は望六と目を合わせてから考える素振りを見せると、何を思ったのか軽く笑いながら適性を受ける事を許可した。一体このツインテ女性は何を考えているのだろうか。


「はい! もちろんです! あざます!」


 そして望六は心の中でガッツポーズをしていた。

 ここ最近は受験勉強の影響でアニメや漫画を封印していた事もあり、突然目の前に現れたツインテ女性を見た瞬間にギリギリで張り詰めていた物が弾け飛んだのだ。


 だから彼は目の前のツインテ女性に某アニメキャラを重ねて見てしまい、もっと見ていたい、もっと話したい、寧ろ罵られたい。などと言う感情が溢れているのだ。

 

「では入れ。今は試験前で人は居ないから安心しろ」


 ツインテ女性が部屋の扉を開けて入室を促して来ると、望六は心を高鳴らせながら一樹を引っ張り魔力適性試験会場へと入って行く。

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