9話「イギリス美少女とプロポーズ」

「えーっとだな。まず最初に言っておくが属性やランクで優越を付けようとするなよ? 毎年それで数人は問題を起こして退学していくからな。魔術士の人数が減るのは学園側や日本としても痛手だから、その辺はしっかりと頼むぞ。あと私の給料が減額されるからな!」


 木本先生はクラスを見渡しながら言うと最後の部分だけ覇気が篭っているように聞こえた。

 恐らく給料減額は彼女にとって死活問題になりうるのだろう。


 だがこんな噂を望六は耳にした事がある。それは第二WM学園や第三WM学園では”Cランクで無属性”の者を煙たがったり、才能が無いと言って虐めに発展したりって言う事をだ。


 確かに第二WM学園は実力主義の校風があるから、そういう風潮が強いのかも知れない。

 第三は富裕層の者が多く在籍している学園だからこそ、富裕層のカースト制度的なのがあるのかも知れない。


 しかしこれはあくまでも望六の予想であり、本当かどうかは分からない。

 そして第二には最近着信拒否された妹の美優達が在籍している筈なのだ。

 着信拒否された理由は不明だが、今はそれはどうでもいいことだろう。


 それと虐めに関して妹達は問題ないと望六は思っているが、むしろ結果と実力を求める柳葉の教えが美優達に変な影響を及ぼしていないか心配なのだ。美優は魔術士候補生としては優れているし、優希も同年代と比べたら頭一つ抜きでていると言えるだろう。


「それと、これはまだ先の事だから言うべきか悩む所だが……まあ、言っといた方が士気が上がるかも知れんな。いいか? このまま例年通りに事が進めばお前達が最初に直面する課題がある。それは五月に開催予定のだ。これはまぁ言ってしまえば、一年全員の実力を測る為の試合だな。別に勝ち負けに拘る必要はないぞ」


 木本先生が一年魔導対決というWM学園固有の行事を言うとクラスの全員が真剣にその話を聞いている様子だった。だがそれもその筈。

 魔導対決ともなれば、それは学園生徒にとって大事な意味を成しているからだ。


 きっと皆はこう思っているだろう。

 その対決で結果を出せば進路が大きく変わってくるだろうと。

 

 これは望六がパンフレットで見た情報なのだがWM学園の卒業生の多くは”競技魔術士”か”軍属魔術士”の道に別れるらしい。

 あとこれは希にだが一般大学に進学する事も可能らしいとの事だ。


「まあ取り敢えず今伝えとくべき事はそれぐらいだな。……あっ、ちなみに言っとくが今日は授業ないぞ。まだちょっと教員達が教科書の手配に戸惑っているみたいだからな。何せ今年は入学者が例年に比べると圧倒的に多いからな」


 木本先生から今日は授業が無いと言われると望六は数人の女子が小さくガッツポーズの仕草をしていた事を見逃さなかった。無論だが彼もしっかりとガッツポーズをしている。


 何故ならWM学園ともなれば初日から魔法の実技や座学が入ってくるかと望六は思っていたからだ。だがそれが無いとなると、このあとの時間は自由時間と言う事になるのではないだろうか。


「さて話は以上だ。あとは各自、事前に知らされている自分達の寮の部屋に向かって荷物を解いたり部屋の整理をしてくれ。それとこの学園では施設紹介というか学園案内とかしないから空いている時間を使って勝手に見て回ってくれ。まあ、迷ったとしても学園に配備されているアンドロイド達が助けてくれるから安心しろ。って事で解散」


 木本先生はそだけ言い切ると早々に教室を出ていき、望六を含めクラスの全員は唖然としている状態であった。


「あれ? も、もう終わったの?」

「何かサバサバしている先生だったね……」


 クラスメイトの一人が喋り出すとそれに続いて皆が喋り出し、クラスの唖然としていた状況は終わりを告げて各自が自由に教室の外へと出て行く様子が広がっていた。


 ……だがしかしだ。ちょっと待って欲しい。

 望六には色々と木本先生には聞きたい事があったのだ。


 それはまず最初に事前に知らされている寮の部屋についてと言う事だ。

 そんな情報は一切聞いていないし、何なら初耳なのだ。


 咄嗟に彼は周りの女子達の様子を伺うと、皆は手にプラスチックカードみたいな物を持っている事に気が付いた。恐らくあれが寮部屋のカードキーなのだろう。


 しかし望六は幾ら自分の記憶を遡ったとしても、あのカードキーを見た事すら思い出せない。

 そうなるとあとは一樹がもしかしたら知っている可能性があると信じるしかなかった。


「な、なあ一樹! お前ってばカー……ド……もっ……」


 だが望六の視界に映った一樹は、月奈の持っているカードキーを見て口を開けて呆然としてい状態であった。これはもう説明もいらないだろう。どうみもて一樹も持っていない様子だ。


「の、望六ぅ! お前はカード持っているか!?」

「逆に俺が持っているように見えるのか?」


 一樹は振り振り返ると顔を物凄い勢いで近づけて聞いてくるが、当然の如く持っている訳なかろうにと彼は返答した。


「……ど、どうするんだよぉぉーー!?」


 一樹のそんな声が教室の端で木霊するとその光景を見ていた月奈が苦笑いしていた様子だが、このまま一緒に教室に居てもしょうがないので先に寮に行ってもらう事にした。


 一応、部屋の掃除とか荷物の整理とか残っている訳だからだ。

 それと月奈には後々あとあと一緒に学園の設備を見て回ろうと約束してあるから問題ないだろうと望六は思っている。


 ……だが、問題があるとすれば寮部屋とカードキーの件だろう。

 二人は寮のカードを持ってないので、どうしたらいいのかと少年二人は頭を抱えている最中だ。


 ――それから席に座りながら数分が経過すると、もう一層の事職員室に行くべきかと結論が出掛けようとしていた所でその声は聞こえてきた。


「失礼しますの! このクラスに宮薗一樹さんはいらっしゃいますの?」


 その特徴的な話し方に覚えがあった望六はつい視線を声のする方へと向けた。

 だがそれは彼だけではなく、恐らく皆も声のする方へと視線を向けていたに違いないだろう。

 

 そして望六の視界に映ったのはやはりと言うべきか、新入生総代表の挨拶をしたシルヴィア・ローウェルの姿であった。


 そのまま教室に残っていた数人の女子達が興味本位なのかシルヴィアに話し掛けに行くと、シルヴィアは数回頷いたあと顔が一樹の方を向いて物凄い勢いで駆け寄ってきた。

 

 まさに猪突猛進という言葉が似合う程に。やがてシルヴィアは一樹の目の前で立ち止まると、近くに望六が居るのもお構いなしに話し始めた。

 

「やっと会えましたね一樹さん! 私は再び会えるこの日をずっと待ち焦がれていましたの! あの日あの時、私に熱い情熱的なをしてくれて以来の再開ですの!!」


 シルヴィアが一樹と鼻先が触れ合いそうになるぐらい顔を近づけて言うとクラスの全員が驚いて言葉を失うなったように教室は一瞬静寂に包まれた。


「……えっ!?」


 そしてその静寂を先に破ったのは一樹の声であり、口を大きく開けて驚いているようだ。

 だけどその様子を間近で見ていた望六は他人事だと言うのに心臓の鼓動が少し早くなった気がした。

 

 それは一樹がイギリス少女にプロポーズしていたと言う驚愕の事実を知ってしまったからだ。

 望六は焦る脳内で状況を整理しようとするが、親友が知らない間に海外の美女に手を出していた事実がどうしても処理出来なかった。


「えっ!? じゃないですの。……まさか忘れたとは言わせませんですの! あれだけ私とを過ごしたんですから!!」


 一樹の反応が煮え切らないものだったのかシルヴィアは次々に爆弾発言を放っている。

 それに対して望六は、一樹は一体どんな濃密な夜を過ごしたと言うのだろうかと光の速さで思案を巡らせていた。


 ……だが考えてみれば自分達はまだ高校生になったばかりである。

 つまり二人が出会っているのはもっと前になるだろうとそこだけは理解出来た。


「一樹、お前ってヤツは等々そのイケメンスマイルを武器にして女性に手を出したか……。これは申し訳ないが後で七瀬さんと月奈に報告させてもらうぞ」


 親友が自分の知らない間に海外の美女に手を出していた事実が判明すると、望六は精神的ショックが大きかったが報告する相手だけは既に頭の中ではっきりしていた。


 しかし同時に妬ましくも思えた。……いや、寧ろ妬ましいという感情しか湧いてこないだろう。 

 いつの間にこんなイギリス美少女にプロポーズをしていたのだという事に。


「ちょ!? 違う! 俺は何も知らないんだってば! そもそもシルヴィアさんと会ったのは今日が初めてだぞ! ……多分」

「はぁ!? 何を言っているんですの! 一樹さんはに私のしに来たじゃないですの! そこで……一樹さんは私に……」


 一樹が何やら言い訳を述べ始めているがシルヴィアの方はしっかりと覚えいてるみたいだ。

 そう、三年前のホームステイがどうこうのと。


「……ん? 待てよ? 三年前って何かあったような…………あぁっ!? そうだあれだ!!」


 望六はシルヴィアが放った”三年前”の”ホームステイ”という言葉でとある日の記憶を思い出した。三年前とは中学の授業で望六と一樹が海外にをしていた時期になるのだ。


 ここで何で二人が海外に体験留学したかと言うと理由は簡単だ。

 悪友と言う悪魔達友人達に騙されて見事に選ばれ決定したと言うだけの事だからだ。


 望六は今でもその事に関しては許していない。というより許すつもりもない。

 足の小指をタンスの角にぶつける呪いを何度も掛ける程だ。


 けれどその結果で望六はが決定して、一樹はが決定したのだ。


 つまりそのホームステイ先がシルヴィアの家だったのだろう。

 そして望六が独り言を放っていると、それが一樹にも聞こえたのか突然表情がハッとなると口を開いた。


「あっ……ああっ!? そうだ! 三年前のホームステイで俺はシルヴィアさんの所に確かに行ったぞ! だけど……そこで何があったのかは思い出せない……」


 望六の独り言をきっかけに思い出したのかは分からないが、一樹はホームステイの事は覚えているようだ。だけど肝心の中身を覚えていないなら意味は無いだろう。


 ……だが一樹のこの口振りから察するに本当にプロポーズの事は覚えていないのかも知れない。

 ならば少々癪なのだが望六は一樹のフォローしてあげる事にした。


「あの~シルヴィアさん? 一樹が机に顔を擦りつけて謝っている時は本当に何も覚えてない証拠なんだ。……まあ、こいつが凄い鈍感なのが悪いんだけど」


 望六が席を立って彼女の方に顔を向けて言うと、シルヴィアは彼の事を横目で見てから全身をプルプルと震えさせて額には青筋が浮き上がっていた。


「本当に……本当に覚えていないんですのッ!! 私とはお遊びだったと言う訳ですの!? ふざけないで下さいですの! 私がどれだけを待っていたのか……貴方に分かりますの!!」


 シルヴィアは机を思いっきり叩くと溜まっていたもを吐き出すかのように一樹に言葉を浴びせていた。望六は黙ってそれを見守る事しかできない。何故ならこれは一樹の問題だからだ。

 

 ……と、カッコよく見えるかも知れないが実際はシルヴィアの怒っている雰囲気が凄く怖くて何も言えないのだ。

 

 しかし彼女のあの口調だと一樹がこの学園に入学する事が事前に分かっていたようだが、恐らくそれは望六達の情報が世界中に拡散された時に学園の事もリークされていたのだろう。

 

 ――それから暫くするとシルヴィアは一通喋り終えたのか息を荒げて肩で息をしていた。

 そして一樹はタイミングを見計らって再び謝ろうとしたみたいだが、


「ご、ごめ「もう謝らなくてもいいですの。謝罪何て生ぬるいだけですの」で、でも!」

「そうですの良い事を思いつきましたの。一樹さん、私としませんか? そこで私に勝てたら今回のことは許してあげますの。ですが負けた場合は大人しく責任を取って私としもらいますの」


 シルヴィアのその言葉は先程の怒りに身を任せたような物ではなく、冷静沈着な言葉のように望六は聞こえた。


「えっ。で、でも俺まだ魔法何てつか「おっと駄目ですの一樹さん。貴方は男性初のAランクなんでしょう? ならばその実力を私に見せて下さいですの。あともし決闘を放棄なんてしたりしたら私の全能力を使って一樹さんを捕まえますの。無論ですがその後の人権は保証できませんの、分かりました?」……は、はい分かりました……」


 一樹は恐らくまだ魔法何て使えないから待って欲しいとか言いたかったのだろうけど、シルヴィアに先に釘を刺されて動けなくなってしまったようだ。


 だがこれはある意味で良い機会なのではないだろうか。

 これで一樹の能天気な部分が少しでも改善されらた、それは望六としても喜ばしい事なのだ。


「では決闘の日程は追ってお知らせ致しますので、精々私に似合う指輪を探しておくことですの」


 シルヴィアは最後に一樹にそれだけ伝えると優雅な立ち振る舞いで教室から去って行った。

 最後の言葉から察するに彼女は勝利を確信しているのだろう。


 しかし……これは些か難儀なものだ。

 望六は頬を掻きながらシルヴィアの去り際の表情を思い出だす。


 綺麗な瞳から雫を零して唇を噛みしめながら去っていく……それはまるで納得はいかないけど堪えているっと言った感じの表情。


 必死に冷静さを保とうとしていても、シルヴィア自体は凄く悲しい筈だ。

 数年も待っていた相手が超能天気な性格で何も覚えていないのだから。


「ど、どうしよう。凄く大変な事になった……俺まだ魔法使えないし、ここは姉貴に頼るべきか……?」


 先程から勝手に一樹は独り言をブツブツと呟いているようだが、今はそんな事よりも望六には優先すべき事があったのだ。

 彼はそのまま一樹の席の前に行くと見下すようにその場で仁王立ちした。


「はぁ……。お前ってさ時々その能天気で人を傷つけるよなぁ。本当にプロポーズの事は覚えていないのか?」

「なんだよ望六も疑ってるのか? 本当に覚えてないんだって。確かに今さっきホームステイに行ったこともシルヴィアさんに会っている事も思い出したけど、プロポーズだけは記憶にないんだ……。それにホームステイに行っていた時期って時期でもあるから、もしかたらそれのせいで忘れてるのかも……」


 確かにあの頃は七瀬が軍属魔術士になるかどうかで日本の魔術社会は大きく揺れていた。

 だとしたら姉貴大好きな一樹の事だから、もしかたらそれもありえる話かも知れない。


 だけど明確な真実は誰にも分からないし、シルヴィアが決闘で解決すると言ったならそれに任せるのが自然の流れだと望六は分かっていた。


 一樹には悪いが自分でしでかした事ぐらい自分で何とかしないといけないのだ。

 だから今回ばかりは望六も心を悪魔にして対応すると決めているのだった。

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