6話「入学式と幼馴染」
望六が何気なく尋ねた質問に一樹は呆けた顔を見せてくると、どうやらこの場に居る二人は入学式が行われる場所を把握していないらしい。
望六は学園のパンフレットに描かれていた地図までは確認しきれていなく、主に学園の場所や制服についてと言う雑学的なものまでしか目を通していなかったのだ。
「うーむ、だとしたら女子達の後をストーキングして付いて行くしかないな」
「おいおいなんだその言い方。……でも確かにそれしかないか」
女子達をストーキングして入学式が行われる会場へと案内して貰おうと言う策を望六が企てると、次に肝心の女子達を探すべく周りを見渡すが……。
「……マジかよ。何でさっきまで大勢居たのに急に居なくなるんだよ!?」
「そりゃあ、あだれな。式がもうすぐで始まるから皆急いでいるに違いない」
気づけば周りに居た女子達までもが最早居なくなっていて、隣からは一樹が知的な感じで手を顎に添えながら言ってきて望六は些細な苛立ちを覚えた。
……しかし状況が変わる事はなく、そのまま二人は三分程その場で膠着していると、
「何だお前達まだこんな所に居たのか! 早くしないと入学式が始まるぞ!」
そう言って二人に声を掛けてきた人物は望六と一樹がよく知っている女子の声であった。
二人は直ぐに声のする方へと顔を向けると、
「つ、月奈!?」
最初にその女子の姿を見て驚愕の表情と声を出したのは一樹であった。
月奈とは一樹の幼馴染で名は【
彼女は一樹と家が近くて幼馴染歴も長いのだ。
そして月奈は望六の通っていた中学で付き合いたい女性第一に輝いている。
それも容姿見れば誰もが納得する美少女だからだ。
腰辺りまである長い濡羽色の髪はサメの形をした髪留めで結んであり、瞳は日本人特有の漆黒色。更に大事な胸の部分は圧倒的な巨乳。それはたわわに実ったメロンを彷彿とさせるようだ。
「……何で月奈がまだこんな所に居るんだ?」
一樹が真っ先に反応を起こしてくれたおかげで望六は冷静に話し掛ける事に成功した。
見れば月奈の姿は中学の時の地味な学生服と違い学園の制服に身に包んでおり、その姿は一端の女子高生と言える。
だが元々月奈の体の成長具合が凄いと言うのも少なからず影響しているだろう。
学園の制服がくっきりと月奈の胸と腰のラインを強調していて凄く良いと、望六はついつい凝視してしまう。
電車で会ったギャルも制服のおかげで胸とお尻が強調されていたし、この学園の制服をデザインした人とは良い酒が飲めそうだと望六は確認した。
……だが本当にお酒が飲める歳はまだ先なのであくまでも気持ちだ。
「おいそこのセクハラ白髪。何処を見てニヤついている? 殴られたいのか?」
「べ、別にニヤついてねーよ!」
どうやら望六が凝視していた視線に月奈は勘づいた様子で、いきなり暴力的発言をかましてきた。これが月奈と言う女子だ。
基本的に強気な性格で唯一優しくなったりするのは一樹ぐらいだろう。
「そうか。最近は胸がまた一段と大きくなったのか肩が重くてしょうがない。まったく……こんなのは脂肪の塊だと言うのに」
月奈のその発言は全国の控えめな胸をしている女性と一部の男性を敵に回したような気がしたが、それよりも望六は彼女のとった仕草に視線が胸へと釘付けだった。
それは月奈が胸を強調するかのように、両腕を使って下から胸を持ち上げたからだ。
「うぉ!? 何という巨乳だ!! やはり一目見た時から思っていたが確実に成長しているな。うむ、俺の瞳には一点の狂いもない! ふっ……月奈ありが「死ね。変態白髪男」ぐあぁつ!?」
胸の感想を月奈に伝えようとすると、それよりも早く頬に拳がめり込む感触が伝わってきて望六は地面に倒れた。
「ふんっ、やはり見ていたか変態。こんな単純な罠に引っかかるのはお前ぐらいだぞ」
地面に倒れた彼を月奈は道端に転がる空き缶を見るような視線で言うと、望六はその罵倒と視線に少しだけ心が震えた気がしたが普通に頬が痛くて泣きそうだった。
「おっと、こんな事をしている場合ではない。早く会場に向かわないと式が始まってしまうぞ。ほら、急ぐぞ一樹!」
「あ、ああ分かった。……望六は置いていって良いのか?」
「気にするな。望六は地面が好きなようだからな。その証拠に見てみろ、余りの嬉しさに悶えているじゃないか。だから置いていって問題はない」
月奈はああ言っているが、何処をどう見たら望六が地面大好き少年で嬉しさの余りの悶えている所に見えるのだろうか。望六は心の中で「痛くて悶えてるんだよ! しかも何だよあの拳の重さは! とてもじゃないが十五の少女の拳ではないぞ!」と頬を抑えながら必死に思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あのあと地面に倒れた望六を置いて二人は式が行われる会場へと本当に向かおうとすると、望六は頬の痛みを我慢して二人を追いかる事となった。
「ああ、えらい目に遭った気分だ……」
「お前がふざけた事をしたからだ。自業自得と言う言葉を知れ」
望六が呟いた言葉に月奈は相変わらず鋭く突き刺さる事を言ってくる。
そして今は入学式が行われる会場、学園の体育館へと来ていて三人は用意されたパイプ椅子に座りながら式が始まるのを待っている状態だ。
「にしてもあれだな。やっぱり多国籍学園とは言われるだけの事はある。ちらほらと海外の方が見えるぞ」
望六が辺りを見渡すとそこには転々と個性豊かな色の髪をした女子達の姿が確認出来た。
人工的に染めている者も居るかも知れないが、その多くは恐らく自毛だろう。
「本当だな。でも普通にこれだけの女性達が入学するのか……? 凄いなWM学園ってのは」
一樹も望六に釣られて辺りを見渡す素振りをすると、この会場には多くの女子達が居る事に驚いている様子だった。だがそれもその筈だ。
卒業して魔術士になれれば安定した収入も約束され、国からの保証も手厚いからだ。
だがそんな事を二人が話していると会場内に響いていた喋り声が静かになり証明も暗くなった。
望六達も喋るのを辞めて真っ直ぐに壇上へと視線を向けると、やっと長い待機時間を終えて入学式が始まるようだ。
「これより、本年度の第一WM学園入学式をとり行います。まず最初に学園理事長の挨拶です」
壇上の端で司会者らしき女性がマイクに向かって喋ると、その声はスピーカーに乗って会場全体に聞こえる。
会場の証明が壇上へと注がれると、ゆっくりとそこに向かって歩く背の高い年配の女性が確認出来た。どうやらこの年配の女性こそがこの学園のトップなのだろう。
そのまま女性は壇上へと上がると用意されていたマイクを調節してから口を開く。
「んんっ……。まずは入学おめでとうっと言っとこうかね。今日から晴れて諸君らは
いざ理事長の言葉を聞くと望六は本当に魔術の道へと足を踏み入れたのだと改めて実感が湧いてきてた。最初はノリと勢いで適性を測ってホテルで監禁され、ここまでとんとん拍子で来てしまったから色々と追いついていなかったもの事実だ。
「魔術の基礎とルール。それに技量と力をこの第一WM学園で三年間みっちりと学んでいって欲しい。さすれば魔法は己の矛にもなり盾にもなる。……まあ、長々と喋っても退屈なだけだから話はこの辺にしとくかね」
と、理事長は驚く程あっさりと話を終わらせると壇上から下りていった。
望六はその無駄のない動作に深く関心を抱く。
何故なら校長先生達が話す物ほど長くて退屈な時間はないからだ。
今回もそれを少なからず思っていたのだが、どうだろう。
これはまさに全ての学生が望んでいた理想のトップではないだろうか。
「では次に、一年を担当する教員達の紹介です」
司会役らしき女性は理事長が壇上から降りるのを目視で確認すると告げてきた。
どうやら次は彼らがお世話になる一年の教員紹介らしく、望六は魅惑の美人教師が居たら良いなと言う淡い期待を持ちながら壇上へと力強い視線を送る。
「最初に紹介するのは一年一組の担任兼
そうアナウンスが入ると会場内は一瞬にしてザワつき始めた。だがそれも無理はない。
望六と一樹の場合は七瀬と濃密な期間をそれなりに過ごしていたせいで感覚が鈍っているが、元々七瀬とは日本を代表する国家魔術士だ。
故に日本で魔術を学ぶ上で必ず一度はその名を知ることになるだろう。
ついでに言うと七瀬は男女共にファンが多いのだ。
そしてこのファン達にはとある共通する点があるのだ。
それは
「うーむ。やっぱり七瀬さんは一年の担当に入ってきたか」
望六が思うに七瀬は自分と一樹を近くで
これでも二人は
ホテルでは色々と起こりはしたが実際にまだ直接的被害を受けていないのが唯一の救いだろう。
望六はそんな事を考えながら、ふと背後から聞こえてくる女子達の声が気になった。
「うそうそっ!! 本物の七瀬様だ!」
「やっぱり第一で教師をやっているって情報は本当だったのね!」
「私……七瀬様の下僕になりたい」
それらの言葉を聞いて望六は七瀬が依然として人気者だと言うと事を思い知ると、最後の子が放った下僕宣言は大丈夫だろうかと心配になった。
……それから壇上ではいつの間にか七瀬が険しい顔つきで立っていて、見るからにその表情は寝不足の影響が響いているような顔付きである。
「やっぱり最強の魔術士は風格が違うね! 表情も凄く格好良い!」
隣の席の女子が何やら勘違いしている様子の事を言っているが、チキンな性格の望六には真実を伝える勇気は当然なかった。それに下手に話しかけて「きもっ」とか言われたら初日で退学申請を出す羽目になってしまうだろう。
「先程言われた通り、一年一組の担任と魔術実技の担当を受け持つ宮薗七瀬だ。これから一年間お前達候補生に基礎をみっちりと教え込む予定でいるから死ぬ気で付いて来い。振り落とされても私は知らんからな。……あと女子寮の寮長も務めている。以上だ」
七瀬は力の篭ったような声で言い切ると右手で頭を押さえながら壇上を下りた。
寝不足のせいで苛立っているのか無駄に力強さを感じる声に迫力が上乗せされると、七瀬の言葉で望六達一年生は全員萎縮していた。
「ははっ……。七瀬さんの言葉はすげー重みを感じるわ……」
会場内のザワついていた声が一瞬にして静寂へと変わり、望六の口からは乾いた声が出て行くのだった。
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