読み応えのある描写を見せるが、カクヨム版では惜しく感じられる点も。

 今作の題材はあらすじにもある通り「あおり運転」で、「そういった短絡的とも取れる犯行をテーマにした長編小説とは、一体どんなものだろう?」と思っていたのですが、実際に読んでみたところ、一癖も二癖もある登場人物のやり取りを見せたり、運転中のシーンをメインとしながらも回想を上手く用いて状況に変化を付けてきたりと、読み応えのある描写が多く感じられ、緊迫感を持ってしっかりと話を追えるようになっていると思います。
 
 話の中盤辺りであおり運転の犯人が判明するのですが、「DV気質でいかつい風貌の男」という、分かりやすいまでに悪役じみた雰囲気だったので、「これはミスリードで、『真犯人』が別に存在するかもしれない」と勝手に予想していたのですが、終盤で「あおり運転の犯人・動機は何か?」という点とは違う角度から意外な展開を見せてくるので、「なるほど、そのように来るか」と思わされました。

 ただ、ある種の謎を残して唐突に話が終わるため、個人的にはやや物足りない印象もありました。また、犯人は元々好青年だったようなのですが、そんな彼が現在のような性格になった理由が随分駆け足気味になっている点も(「元からそういう男だった」と捉えることもできますが)。まあ、あとがきに書いてある通り、推敲された書籍版ではそういう気になる点が解消されているかもしれませんが、カクヨム版に限って評価するならば、「惜しい」と感じられるところもある作品でした。

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