共に立ち、隠を祓う

比叡山が襲撃された。敵は隠(おぬ)と呼ばれる怨霊の類いで、これを祓うのは隠儺師の役割だった。比叡山の惨事から生き延びた青年は、自らも隠儺師となって、敵と戦うことを決意する。
実のところ、彼には稀有な才能があった。式神として、四神を従えることができるのだ。一方で、重大な秘密もあった。その秘密ゆえ、彼は名を名乗ることさえ禁じられていた……。

というわけで、現代和風ファンタジーとして破格の雰囲気を漂わせる本作。導入部だけ見れば主人公の青年が圧倒的活躍を見せて敵を打倒する物語だと思われるかもしれません。敢えて言おう。違うと!

青年は名前を明かすだけでも五話かかります。それを明かすまでに積み上げなければならないのは、ひととの信頼。この作品は、強い者が独りで立つのではなく、仲間と〈共に立つ〉ことを学ぶ物語です。名前の大切さ、それぞれの役割の重要性、そしてコミュニケーションを取ることの意義が、多彩なキャラクターや次々と襲い来る困難を通じて明らかになります。青年には才能があるし、勇気もある。それでも仲間と一緒でなければ、生き抜くには足りないのです。それはこの作品が現代を舞台とし、真摯に主題を探求した結果だと思います。

さて、こんなふうに述べると、爽快感の足りない作品だと誤解されるでしょうか。せっかく隠儺師という魅惑の設定を抱えているのに、飼い殺しと思われるでしょうか。敢えて言おう。違うと!

主人公の青年に誠実な魅力があるのは言うに及ばず、その相棒となるキャラも、先達となるキャラも、みーんな個性が際立っています。中篇規模の小説とは思えないほど多くのキャラクターが出るから覚悟してくださいね。花の絨毯で眠る男、ピーコックグリーンの眼を持つ青年、やけに元気な筋肉野郎、大型バイクに寄りかかる姉御肌の女性、鴉に化ける男、仙家出身の優美な女性、やたら存在感のある寮長たち……。これでも一部です。
興味深いのは、これだけいる登場人物が交通渋滞を起こさずに見せ場を連携していくところ。それがこの作家のどんな咒法によるものかは、ぜひご自身の目でご確認ください。

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