少女が新たな人生を歩き出す、恋愛SFファンタジー

過酷な家庭環境で生まれ育った少女『佐伯花子』。夢の中で出会った謎の男に突如『任務』を言い渡され、十二才の『セトア・コオ』として異星オルドに強制派遣されてしまう。右も左も分からない中で心優しき仲間達と出会い、虐げられ利用されてばかりだった少女は、本当の人生や真実の愛を手にすることができるのか――。

57話まで読了しました。
SFチックな導入から始まり、ナビゲーションシステムや肉体の再組成などの超技術的な設定が多い中で、舞台となる星はファンタジー要素に溢れている部分が、独特で面白いなと思いました。
加えて一種の『異世界転生作品』として読むことも可能で、『スキル』などの設定、主人公を虐めていた人物達が落ちぶれる『ざまぁ系』的なテイストもあり、かなり研究して細部まで作り込まれて執筆しているのだろうな、という印象を受けました。
多くの設定が出てくるものの、複雑すぎて世界観を把握できないといったことはなく、丁寧で読みやすい文体を意識されているのだなとも感じます。そしてバトルシーンにおいては迫力やシリアスな雰囲気が十二分に発揮されており、全体的に文章力は非常に高いと思います。
加えて、竜族の血を引く『ベルさん』こと『ヴェレルキヌエス』との交流や互いに惹かれ合っていく恋愛描写も巧みであり、初々しくて応援したくなるような『こそばゆい』心情描写なども秀逸でした。
『恋愛』『SF』『ファンタジー』『スキルや魔物』『戦闘』という多くの要素がバラバラに取っ散らかっているのではなく、ひとつの作品として綺麗にまとまっている部分が、何よりも特筆すべき長所で素晴らしいと思いました。そしてそれぞれの要素も丁寧でハイレベル。間違いなく良作です。

しかし『丁寧さ』に溢れているというのは、逆を言うとテンポの悪さやスローな展開に繋がっている、とも言えてしまいます。
3章は内容が詰まっていて満足感があるのですが、そこに行くまでの1章や2章での動きが左程大きくなく、設定や世界観の説明が多いなと若干感じました。
その割にはアクシデントやイベントが唐突に発生するため、『低速かと思ったら急発進』みたいな印象も抱いてしまいました。

とはいえ『丁寧さ』と『テンポの良さ』を両立させるのは至難の業なので、むしろソコ以外に目立った短所が見当たらない『良作の証拠』なのかもしれません。じゃあ世界観の説明や登場人物達の交流をカットして、物語をドンドン進めれば良いのか?と聞かれたら、そういうわけでもないですからね。
二人の恋の行く末を、丁寧に描ききって欲しいと思います。セトアこと花子が最後には幸福を掴み取ることができるのか、結末が気になって応援できる作品でした。

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