二十一歳の牧瀬陽人は、働いていたレストランが倒産し、路頭に迷っていたところを強面の男性・滝川に助けられる。大工である滝川の職人としてのアツい想いや切ない過去、多くの人との出会いに触れ、陽人の止まっていた時間が動き出す。
とても温かくステキな物語、面白かったです。古い物を捨てるのではなく、直して、磨いて、新たな命を吹き込んでいく滝川。物をもっともっと大切にしようと思いました。また、家族の形や人との向き合い方も教えてくれる作品です。
辛い思いをしたからこそ気づける優しさがあり、一見明るく振る舞っている人にも、抱えているものがあるかもしれません。出てくるキャラクターがみんな穏やかで優しく、自分の悩みも聞いてほしいなぁ、なんて思いました。
古い物の良さを生かしながらリメイクするように、陽人は陽人のまま、滝川は滝川のまま、ゆっくりと前へ進んでいきます。爽やかな風を感じる物語、ぜひ読んでみてください!
改稿前と改稿後、両方とも読ませていただきました。
この改稿版は変更や追加がありますが、根本にある大切なものは変わっていません。
木工店ですから、木を扱います。思い出の小さなアクセサリーから、毎日使う身近な家具、それに家まで。私たちの身の回りは、こんなにたくさんの木の温もりに包まれているのだと改めて感じます。
それらはただ作られてそこにあるわけではなく、年月とともにたくさんの人の思い出を吸収し、味わいを深めながら生き続けます。
人と共に、少しずつ色を変え形を変え、まるで人を見守ってくれているかのような木工の数々。
この作品では、そんな素敵な作品を多く目にすることができます。
それらを生み出していく葵と、彼と共に様々な人生を歩んでいく陽人。そして、滝川が大切にしている少女・陽。
彼らの出逢いは、まるで青空に輝く太陽のように、この世界を眩しく温かく照らしてくれるのです。
木との触れ合い、人との出逢いをもう一度じっくりと噛みしめたくなる、心の奥にじんわりと沁み込んでいく作品です。
大切なものを見失いそうになったら、ぜひこの作品を思い出してください。
人と人とが誠実に関わり合う幸せがじわりと胸に染み込む、味わい深い人間ドラマです。
会社の倒産で住む場所も失い、途方に暮れていた青年、牧瀬陽人。そんな彼に手を差し伸べたのが、滝川という一見無愛想な青年でした。
滝川は小さな木工店を営んでおり、陽人は彼の住まいの一室を借りて共同生活を送ることになります。共に過ごす時間の中で、陽人と滝川はそれぞれに抱えた重い過去に少しずつ向き合い始め——。
登場人物たちと滝川の関わり、そして陽人との関わりは、そのひとつひとつが細やかで温かく、読み進めるうちに読み手の心も優しく解れていくようです。
家、鉛筆立て、机、本棚——。使っていた人々の様々な思いがこもった木製品を、思いはそのままに新たなものに生まれ変わらせる技術を持つ滝川。まるでその手から温かい幸せを生み出す魔法のように。それは、自分のことは後回しにしてでも周囲の人の思いに向き合い、誠実にその思いを形にして届けたいと願う彼だからこそ使える魔法なのだろうと思います。
この物語には、凪いだ海が陽射しに輝くような明るく穏やかな空気が常に満ちていて、読んでいてほっと心を癒されます。それぞれの登場人物の細やかな思いが行き交う様子に、人と人が誠実に向き合う大切さを改めて考えさせられます。
まさに「陽」の文字が相応しい、温かくて優しい物語。おすすめです。
働いていたレストランが倒産。住んでいた部屋も追い出されて、ほとんど身一つで夜の町をさ迷う青年、牧瀬陽人。
そんな人生のどん底にいた彼に声をかけてきたのは、切れ長の目をした体格の良い、強面の男でした。
泣きっ面に蜂ならぬ、どん底にヤクザ!? いいえ、違います。
声をかけてくれたのは滝川さんと言う、見た目は迫力あるけど優しい青年でした。
彼は行く当てのない陽人を家に住まわせてくれて、そこから二人の生活が始まったのです。
困っている人を放っておかないなんて、滝川さんは良い人。
しかしそんな彼も辛い出来事を経験したり、思い悩む時があるわけですが。陽人もただ住まわせてもらうだけではありません。
彼やその友達から話を聞いて、太陽のような暖かさで彼らを支えてくれる。そんな優しさに溢れた人間関係を、広げていってくれます。
このお話のテーマは優しさ。読み終わった後、心に潤いを与えてくれるような晴れやかな読後感がありました。
天涯孤独な上、勤めていた会社が倒産し、住む場所も行くあてもなくなってしまった陽人。
悲しみにくれ、どうすることもできなくなった彼が夜の公園で出会ったのは、少しぶっきらぼうな青年、滝川でした。
色々あって彼の家に住まわせててもらい、だんだんとその人となりを知っていくのですが、滝川さんをはじめとする登場人物一人一人が、とても温かいです。
誰もが皆順風満帆な人生を送っているわけではなく、心に傷を負い、悲しみを抱えていることもありますが、決してそれだけには囚われてなくて、その分人に優しくでき、笑顔にすることができる人たちなのです。
決して大それたことができるわけじゃない。けれど、できる範囲でちょっとだけ誰かに優しくしてみよう。そうしたら、ほんの少しみんなが幸せに近づくから。
心の中が温かいもので満たされるような、とてもほっこりするお話でした。
タイトルの中に「想い出が生まれ変わる場所」という一文がある。想い出はよみがえるものだというイメージが強い。しかし、よみがえった後の気持ちの整理までは面倒を見てくれない。
滝川木工店の店主は、得意とする木工の技術と矜持を以って、壊れた木製品のレストアや廃材となりかけた木製品を別のものに変えることで、そこに込められた持ち主の想いも変えていた。請け負った依頼に対する最高のアフターケアが、依頼人の数だけ存在し、それら全てに手抜きが無い。こういう木工店に、愛宕も何か依頼してみたいと思わせる魅力が、作者さまの筆から溢れていた。
人それぞれ、思い出したくない過去や想い出の一つくらいはあると思う。それを思い出さないのが最善かもしれないが、改めて向き合い、それを糧に新たな一歩を踏み出す方が、豊かな人生を送れるのではないか……そんなメッセージを投げかけてくれているような気がした。
読めば、気持ちが温かくなる作品です☆