幸せは、人と人が誠実に向き合った時に生まれる。

人と人とが誠実に関わり合う幸せがじわりと胸に染み込む、味わい深い人間ドラマです。
会社の倒産で住む場所も失い、途方に暮れていた青年、牧瀬陽人。そんな彼に手を差し伸べたのが、滝川という一見無愛想な青年でした。
滝川は小さな木工店を営んでおり、陽人は彼の住まいの一室を借りて共同生活を送ることになります。共に過ごす時間の中で、陽人と滝川はそれぞれに抱えた重い過去に少しずつ向き合い始め——。
登場人物たちと滝川の関わり、そして陽人との関わりは、そのひとつひとつが細やかで温かく、読み進めるうちに読み手の心も優しく解れていくようです。
家、鉛筆立て、机、本棚——。使っていた人々の様々な思いがこもった木製品を、思いはそのままに新たなものに生まれ変わらせる技術を持つ滝川。まるでその手から温かい幸せを生み出す魔法のように。それは、自分のことは後回しにしてでも周囲の人の思いに向き合い、誠実にその思いを形にして届けたいと願う彼だからこそ使える魔法なのだろうと思います。

この物語には、凪いだ海が陽射しに輝くような明るく穏やかな空気が常に満ちていて、読んでいてほっと心を癒されます。それぞれの登場人物の細やかな思いが行き交う様子に、人と人が誠実に向き合う大切さを改めて考えさせられます。

まさに「陽」の文字が相応しい、温かくて優しい物語。おすすめです。

その他のおすすめレビュー

aoiaoiさんの他のおすすめレビュー1,087