シンデレオ 4
魔女は、退屈だった。
魔女なので長生きなのはいいが、あっちこっちで虐げられ系のヒロインをハッピーにしているうちに、やることがなくなってしまったのである。
「シンデレラは幸せにしちゃったから今さら出番もないし、白雪姫は王子様がキスして幸せにしちゃったし、人魚姫は海だから管轄外だし……」
こんな調子で、もう長いことトリの巣症候群なのである。
そんなさみしい魔女が最近ドハマりしたのが、ホストクラブ。
通いすぎてドンペリ開けすぎて、いつの間にかツケがたまりまくっていた。
スマホに届く請求メールを見て、さすがにこれはマズいと思った。
こればかりは魔法でどうにもならない。
魔法でツケとか帳消しにしようものなら、即、魔女資格を剥奪される。
そこで思い出したのが、ガラスの靴だ。
「あれはもともと、私の物だったんだから」
あのとき――シンデレラを舞踏会に送りこんだ夜。
ボロい洋服をドレスに変えることはできたけど、シンデレラは靴を履いていなかったので、靴だけがどうにもならなかった。
(しょうがないわねえ)
内心そう思いつつ、基本的に魔女はいい人だった。
これも未来ある若者のため、と思い、ちょっときばって一番上等な靴を貸してやったのだ。
「それなのに、シンデレラったら!」
ガラスの靴はすべりやすいのに、十二時の鐘にビビったシンデレラは全力疾走したらしく、靴を片方落としてきてしまったのだ。
弁償しろ! と言おうとした矢先、王子様が「ガラスの靴がぴったりな娘を嫁にする」とか言い出した。
ガラスの靴は返してほしいが、めんどうなことになってしまったのだ。
「もともと私の靴だから私にだってぴったりだけど、さすがに王子と歳の差婚するほど図々しくないしねえ……」
そんなこんなで名乗り出るのをためらっている間に、見事ガラスの靴を履いてみせたシンデレラは王子とめでたく結婚、世界中で「ガラスの靴=シンデレラの靴」ということになってしまった。
「でもね、私の靴だってことは、変わらない。あの靴は、私の現役時代絶頂期の魔法がかかってるんだから。あの靴は、持ち主を選ぶのよ」
くふふ、と魔女は笑う。
「年月が経ってレア度も増してるから、かなりな値段で売れるはず……ツケをチャラにしてもおつりがくるかも。そしたら、何を買おうかな♪」
そう。魔女は、ガラスの靴をとりもどし、売ったお金でホストクラブのツケをチャラにしようとしているのだった。
――そんなこととはまったく知らないシンデレオは。
VIP御用達リムジンでお城に乘りつけると、テーブルに並ぶごちそうには見向きもせず、さっそくガラスの靴が展示されている場所を探し始めていた。
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