シンデレオ 3
――舞踏会当日。
「ちゃんと留守番してるのよシンデレオ!」
「うい」
「もうっ、ちゃんと聞いてるの?! 家事さぼったら一週間給料ナシだからねっ」
継母はいつものようにきーきー怒鳴ると、Uberで呼んだタクシーに乗りこんだ。
「じゃあねシンデレオ」
「家でお城のYouTube公式チャンネル舞踏会ライブ配信でも見てなさいよ。きゃははー」
義姉たちもUberタクシーに乗りこんだ。
「……よし、行った」
あたしはサッとスマホを取り出す。
「あ、もしもし? 魔女派遣会社ですか? はい、そうです。はい? はい、指定の住所に頼んでおいた魔女、送りこんでくださーい」
すると一瞬で、目の前がキラキラときらめき、上品そうな銀髪のおばあさんが立っていた。
白いローブに銀色のステッキ。
THE魔法使いのおばあさん風味。
これは当たりかも!
「こんばんはシンデレオ」
「えっ、なんでその呼び名を?」
契約書には本名しか書かなかったような……。
「細かいことは気にしなくていいからね。あんたは日頃がんばっているから、この超一流魔法使いの私が、あんたの夢を叶えてあげようね」
「はあ?」
ていうか、そんなシンデレラストーリー的な流れじゃないっていうか、アナタのことはちゃんと夜間割増料金払って魔女派遣会社から手配してもらったんですけど。
「シンデレラとシンデレオ。似た名前の者どうし、幸せになってもらいたいものねえ」
「は?」
「いやいやこっちのこと」
「はあ……まあ、それで仕事内容なんですが」
「いやいやいやいや! みなまで言うな、あんたの望みは王子様のいる舞踏会に行きたいってことだろう?」
「はあ、まあ」
なんかちょっと噛み合わないな、このおばあさん。
まあいいか。
割増料金も払っちゃってるし、まあベテランぽいし、とっとと仕事してもらおう。
「ドレスと靴はあるんですけど、あたしメイクとかマジ無理なんで。あと、お城までのアシがないんですよねえ」
「えっ、ドレスあるの? ……ふうん、けっこういいじゃない。パステルブルーにホワイトのレースがクールで素敵よ」
「これが一番安かったんで」
「なんていうか……ロマンがないわねえ」
「ロマンとかいいんで。このドレスに合うメイク、お願いします」
「まあいいわ。あんたけっこう美人だから、ドレスが地味でもじゅうぶんイケるわ。ほら~」
ちょちょい、っとお婆さんがステッキを振る。
キラキラキラ~
ん? なんか顔がむずむずするような……
「ヤバっ!! おばあさん神じゃん!!」
鏡を見ると、そこにはSNOWで激盛りしたような異次元美少女が映っている。
これあたし?
マジ卍?
もう一回、キラキラキラ~
「はい到着~」
魔法使いが玄関の扉を開けると、レベチに長い純白のリムジンが外に停まっていた。
「うっそガチやば、超VIPじゃん」
「でもねえ、気を付けてちょうだい。ぜったいに、夜中の12時の鐘が鳴り終わるまでに、帰ってくること。そうしないと、魔法が全部解けてしまうから」
「だいじょぶだいじょぶ。そう言うと思って、ガチで走れる靴にしてるから!」
あたしはひらひらのドレスの裾を上げ、魔法使いに見せつけた。
NIKEエアマックス 伝説の95モデル。
ネットオークションで〇十万円で落とした、あたしのコレクションの中でも最高峰の靴だ。
「あらあんた、ドレスなのにスニーカーなの?」
「こっちの方が動きやすいし。ドレスなんだから靴なんか見えないし」
「う、ううーん……ロマン……」
「さあシンデレオ様、お乗りください」
いつのまにか、運転手らしき黒づくめのオジサンが立っていた。
そして、サッと重そうなリムジンのドアを開けてくれる。
「あざっす」
あたしは意気揚々と、純白のリムジンに乗りこむ。
車内には、シャンパンとイチゴまで用意されている。
サイコー!
バイブスあげぽよっている間に、リムジンは発車したらしい。
さっすが超高級車。静かすぎてぜんぜん気付かなかったわー。
夜闇をすべるように出発したリムジンを、魔法使いのおばあさんはしばらく見送っていたが、
「ま、いっか。私のかわいい黒猫ちゃんが首尾よくやってくれるでしょう」
おばあさんはふふふとイタズラっぽく微笑むと、きらりん、という音をたてて月夜に消えた。
――その数分後。
「ちわー。魔女派遣会社から来ました、派遣魔女なんすけどー……って、誰もいないじゃん!」
派遣された魔女は、無人の屋敷で呆然と立ちつくした。
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