シンデレオ 2


 それは、数週間前のある日。


 継母が興奮してリビングに入ってきた。



「おまえたち! 国王様からの招待状よ!」

 継母の手には、真っ白な封筒が握られている。


「王様が舞踏会を開くんですって! 王子様の結婚相手を探すから、年頃のギャルは全員ふるって参加するように、ですって!」


 つまり婚活か。

 しかも年頃のギャル全員って、みさかい無いな王子。


「やったあ、玉の輿よ!」

 義姉たちは手を取り合って喜んでいる。

 ていうか玉の輿って。

 この人たち、王子と結婚できる気でいるのか? こわっ。


 ていうか王子も王子だよ。

 国中のギャル集めてハーレムパーティーするとか、引くわー。


「あんたは着ていくドレスもないんだから、行けないわよね」


 はい出たディスり発言。

 ザンネンでしたー。

 行けなくてけっこうだもんね。

 継母と義姉たちが出かけるなら、お菓子食べ放題プライム見放題の天国じゃん。

 舞踏会なんてそもそも行きたくないし。


「なになに? えーと、舞踏会には王城秘蔵の『ガラスの靴』を展示する、ですって。舞踏会参加者はもれなく『ガラスの靴』を見放題、ですって」

「はあ?」

「なにそれ。べつに見たくないし」


 義姉たちが白けている部屋の片隅で、あたしはぎらりと目を光らせた。


(めっちゃ見たいんですけど!!!)


『ガラスの靴』。


 それは、靴マニアなら垂涎必至のレアアイテム。

 一生に一度は拝みたい神アイテム。

 国宝として王城に秘蔵され、庶民は一生かかったってまず見られない代物。

 それを、展示するだって?! 見放題だって?!


「えーと、舞踏会だからラフな感じでOK、ドレスを着ている15歳以上のギャルなら誰でも入場OK、だって」


 なんだって?

 じゃあ、ドレスがあればパーティーに行けるんだな?

 よし、そんならバイトして金貯めて、ドレスを買ってやる!



 というわけで、あたしはドレス代を貯めまくることにしたんだ。



 考えてみれば、趣味いがいにお金使うのって初めてじゃん? あたしってけっこうオタク? まじウケる。

 え? 趣味は何かって?


 あたしの趣味は――靴だ。



 おしゃれにも男にも興味のない、そして朝から晩までこき使われる生活を送るあたしの、唯一の趣味&楽しみは靴をコレクションすること。


 すべての給料を靴に使ってる。


 継母や〇サミストリート義姉妹の言いつけ通りに家事をするのは、すべて給料のため。靴を買うお金をゲットするため。

 タダ働きとかマジ有り得ない。

 継母が給料を渋ろうものなら、弁護士を秒で呼ぶ。そういう契約。

 パパが死んだとき、そういうことになっていた。いきさつは知らない。

 あたしは住み慣れた家にいられればいいし、靴が買えるお金が手に入ればそれでいい。

 そんなわけで、今にいたる。

 そしてあたしは、給料のほぼほぼすべてを靴に使っている。


 服はパパのおさがりと、ほんとうのママの形見のワンピースしかもっていない。

 が、靴はたくさん持っている。

 ヤバいほど持っている。

 継母や義姉にナイショで、トランクルームを借りて保管するほど持っている。


 ガチの靴マニアなんだ。


 三度の飯より靴、イケてる服より靴、ばえるグルメより靴。

 世界中のありとあらゆる靴をコレクションしている。

 今はネットでポチれば、世界中の靴を買えるし。


 しかし。

 そんなあたしでも、手が出ない靴というのがある。


 それが、お城が秘蔵する『ガラスの靴』だ。


 その昔、魔法使いが作った靴らしい。

 知らんけど。

 ウワサでは、はく者を選ぶ靴なのだとか。

……どんだけだよ。靴のくせに。

 と思わないではないけれど、レアアイテムに目の無いあたし。

 展示されて見放題なんてマジパネェ。


 あーなんか、めっちゃバイブス上がってきた。

 ドレスゲットして、ぜったい舞踏会に行ってやる!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る