LAA 赤ずきん 7
「あれは……トランシーバー!」
古い刑事ドラマで見たことがあります。物々しい黒い箱のようなボディがレトロで『なんかすごいことやりそう感』をかもし出しています。
「こちら赤ずきんのおばあさん、赤ずきんのおばあさん、オオカミ確保。Over?」
おばあさんが黒い機械に向かって話すと、ジーっ、ジーっという音と共に不吉な男の声が聞こえました。
『こちら尾行班。もうすぐそちらへ到着です。Over』
さっきの不吉な男の声が聞こえた、と思ったら、バターン!と玄関扉を蹴破る音、ドカドカと重い靴音が入ってきました。
「動くなオオカミ! 暴行罪および横取り詐欺罪の疑いで逮捕する!」
真っ黒いスーツ姿に真っ黒いサングラスにオールバックの男が二人、オオカミに猟銃をつきつけました。
「そ、そんな! 俺っち何にもしてねえよ!」
「とぼけるな! 赤ずきんちゃんを家からずっとつけ回していただろう!」
そのとき、黒い男たちの背後から、ぴょっこりLAAの赤いキャップがのぞきました。
「オオカミさんたら家を出てすぐに声をかけてきたものね。警察さんたちの言う通りだったわ」
「赤ずきんちゃん! どうして……」
黒ずくめの男たち二人は、赤ずきんちゃんとおばあさんと握手しました。
「ご協力ありがとう、赤ずきんちゃん。単独詐欺を繰り返していたオオカミをやっと捕まえることができたよ」
「おばあさんも、ご協力ありがとうございました!」
「囮捜査だったってことかよ……とほほ」
そうとは知らず、必死で赤ずきんちゃんを誘導したり、なけなしの全財産をつぎこんだり。オオカミはがっくりです。
「いえいえ、市民として警察の方々に協力するのは当然のことですわ。このトランシーバーっていう物も、一度使ってみたかったんですの。ほほほ」
おばあさんはトランシーバーを男たちに返します。
「赤ずきんや。無事でよかったわ」
「おばあさん、ごきげんよう」
二人はひしとハグをします。
「おばあさんがくれたLAAのキャップ、すごく役に立ったって警察の方が言ってたわ。ゲームセンターでも見失わずにすんで、おばあさんへの連絡もスムーズにできたんですって」
「よかったわねえ、ゲームセンターでも迷子にならなくて」
「ええ、でも大谷翔平選手のヌイグルミをゲットし損ねちゃった」
「あらあら、また推し活していたの? しょうのない子ねえ」
ぺろりと桃色の舌を出すキュートな赤ずきんちゃん。
LAAのキャップが輝く孫の頭を、愛おしそうに撫でるおばあさん。
とても微笑ましい風景です。
詐欺師オオカミも捕まったことですし、一件落着。めでたしめでたし。
――と、その前に。
微笑み合う二人の前で、黒ずくめたちが言いにくそうに切り出しました。
「たいへん申し上げにくいのですが……ゲームセンターでの器物損壊の疑いで、赤ずきんちゃんには署まで御同行願います」
~『LAA赤ずきん』おわり~
メルヘンちゃんねる。 桂真琴@12/25『転生厨師』下巻発売 @katura-makoto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。メルヘンちゃんねる。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます