LAA赤ずきん 2


 赤ずきんちゃんがマシンガンのように大谷翔平選手の魅力について語っている間、オオカミはさりげなく赤ずきんちゃんを森の中へ誘導して、目的の場所に着きました。

 そして、わざとらしく大声を上げました。


「わああ、こんなところに楽しそうなゲームセンターがあるぅ!」


「あら、ほんとうだわ」

 推しの話を中断され、通常モードにもどった赤ずきんちゃんは、いつものピュアな様子で目を輝かせました。

「とっても楽しそうなゲームセンターね」


 しめしめ、とオオカミは心の中で舌なめずりをします。

「ちょっと遊んでいこうよ」

「ダメよ。ママに、道草してはいけないって言われているもの」

 赤ずきんちゃんは悲しそうに首を振りました。


(とりあえず、赤ずきんちゃんを足止めしなくちゃ)


 おばあさんの家へ先回りするには、赤ずきんちゃんに長時間ここにいてもらわなくてはなりません。


「ああっ!」


 オオカミはかなりワザとらしく大声を上げました。

 赤ずきんちゃんはピュアな表情で首をかしげます。


「オオカミさん、どうしたの?」

「あそこに、大谷翔平選手のヌイグルミが!」


 それはクレーンゲームの台で、プロ野球選手をデフォルメしたヌイグルミがたくさん入っています。

 その中には、我らのヒーロー大谷翔平選手のヌイグルミも、もちろんあるのでした。

「ガチやべえ! 尊すぎる!! ひゃっほーう!!!」


 赤ずきんちゃんは人が変わったように奇声を上げると、まんまとクレーンゲームにまっしぐらです。



 〇ケモンや〇滅の刃などのクレーンゲーム台にはたくさんの人が並んでいますが、こちらのプロ野球台には誰もいません。


 目をギラギラさせてさっそく台に食いついた赤ずきんちゃんですが、急に通常モードに切り替わりました。


「ぜったい取ったるでぇ!……あら、どうしましょう。わたし、お金持ってないんだったわ。やっぱり、道草しないで行かなくちゃ」


 ふいっと台から離れようとする赤ずきんちゃんを、オオカミは全力で止めました。

「ちょっと待ったあ! おばあさんの家に行くための電車賃があるだろう?」

「おっ、それな!!」


 赤ずきんちゃんはこれまた急に推し活モードに切り替わり、アッサリお財布を出しました。


(だいじょうぶかコイツ……)

 ほんとうにちょろいカモです。しかしだましておきながら、ちょっと赤ずきんの将来が心配になるオオカミです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る