LAA赤ずきん 3


 そしてオオカミは、赤ずきんちゃんのガマ口お財布の中身を見て、ちょっと不安になりました。


(マジで電車賃しか入ってねえじゃん……)


 クレーンゲームは一回300円です。

 赤ずきんちゃんのお財布には680円しか入っていません。

 それは、あばあさんのお家まで片道340円、往復分ぴったりの代金です。


(いまどきドリンク代くらい持っとけよ……ていうか〇uicaどこいった!〇uicaがねーなら現金もっと持たせろよ赤ずきんの母!)


 オオカミの見立てによれば、まずは山積みになったプロ野球選手ヌイグルミの中から、大谷翔平選手のヌイグルミを掘り起こさなくてはなりません。

 それには、どんなに少なく見積もっても五回はチャレンジする必要があるでしょう。

 掘り起こした後でキャッチするのに、最低でも三回。

 つまり、計八回分、2400円以上なくては、大谷翔平選手のヌイグルミに赤ずきんちゃんを食いつかせておくことができません。

 赤ずきんちゃんはピュア、というかけっこうアッサリしているので、大谷翔平選手をゲットできないと思ったら「あら、もうお金がないわ、行かなくちゃ」となるでしょう。

 680円ぽっちりでは、赤ずきんちゃんを長時間ここに足止めするのはとても無理です。


 オオカミはこれだけの戦略を三秒ほどで弾き出すと、

「ちょっと待ったあ!」

 赤ずきんちゃんの肩に手をかけました。


「じゃますんなっ!!オオカミはとりま音ゲーでもやっとけ!!」

 目をぎらぎらさせて電車賃を投入しようとしている赤ずきんちゃん。

 オオカミはとっさに、自分のお財布からナケナシの3000円を抜き取って、ヒゲを引きつらせながらも優しく微笑みました。


「これを使いなよ!」

 すると赤ずきんちゃんは突然、通常モードに切り代わりました。


「まあ、いけないわ。どうしてそんなに親切にしてくれるの?」

「そ、それは」



 おまえを食うために決まってんだろ! と思いましたがもちろんそんなことは言いません。



「赤ずきんちゃんとオレ様はお友だちだからだよ」

「たしかにそうね……でも、どうしてお金をくれるの?」

「そ、それは」



 おまえをここに足止めするためだよ! と思いましたがもちろんそんなことは言いません。



「お財布の電車賃を使っちまったら、君はおばあさんの家に行けなくなっちゃうじゃないか」

「たしかに……でも、どうして3000円ぽっちりなの?」

「う、そ、それは」



 680円しか財布に入れてないヤツが何ぬかす! と思いましたが、もちろんそんなことは言いません。



「クレーンゲームは一回300円だよ。3000円あれば、十回できる。十回もやれば大谷翔平選手のヌイグルミがきっと取れるよ!」

「たしかにそうね! ありがとうオオカミさん」


 そしてアッサリ、オオカミの手から3000円をむしり取った赤ずきんちゃん。


(くそー赤ずきんめオレ様の全財産をアッサリ受け取りやがって! こういうときは遠慮するだろうふつう!!)



 しかし時すでに遅し。

 赤ずきんちゃんはさっそく両替機で3000円すべてをじゃらじゃらじゃらんと100円玉に替えています。


(くそーこうなったらぜったいにおばあさんの家へ先回りしておばあさんから金をぶん取って赤ずきんちゃんを食ってやる!)



 オオカミはほぞをかんで、おばあさんの家へすっ飛んでいきました。


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