LAA赤ずきん 4
オオカミがイライラしながら森をぬけ、京王線の電車に揺られている頃、赤ずきんちゃんはゲームセンターで推し活モード全開でした。
「はあ?! 今ので取れないとかねえだろうがクソがっ! あたしの大谷翔平選手返せコラ!!」
大谷翔平選手のヌイグルミはクレーンゲームの機械に入っている物なので、赤ずきんちゃんの物ではありません。なので「返せ」という言葉は妥当ではありません。
この曲解もヒートアップした推し活の成せる業でしょうか。
血走った目で叫ぶ赤ずきんちゃんを、周囲は遠巻きに見ています。
その中に、真っ黒いスーツ姿に真っ黒いサングラスにオールバックの男が二人、推し活真っ最中の赤ずきんちゃんをじっと見ていました。
男たちは、何やらトランシーバーのような物で話をしながらも、赤ずきんちゃんから目を離しません。
周囲の風景からかなり浮いている男たちですが、今は皆、赤ずきんちゃんに釘付けなので気にされていません。
「あーまじワンチャン、いけるかな。てか、あと一回しかできねーじゃん」
おばあさんの家に行く電車賃をすべて使ってしまったことなど、とっくに忘却の彼方の赤ずきんちゃん。
ワンチャン、試すか否か。試さず、ヒートアップした喉を潤すべく、ジュースを買うか。
300円を握りしめた赤ずきんちゃんは、ごくりと唾を呑みました。
そして意を決した赤ずきんちゃん、ちゃりちゃりちゃりんとお金を投入しました。
「いげーっ」
なぜか
クレーンの銀色のアームが、大谷翔平選手をがっちりつかみます。
「おおぉおしっ!!」
すかさずレバーを操縦する赤ずきんちゃん。
「いげーっ」
さあ、ゴールの穴は、すぐそこに。
もう少し。あと十センチ!
しかし赤ずきんちゃんの
そして、元あったヌイグルミ山の奥深い洞窟のごとき難所へ転がり落ちてしまいました、とさ。
「クソがぁあああ!!!」
周囲は「あっ」と息を呑みました。赤ずきんちゃんが獰猛なクマのようにクレーンゲームの台に飛びついたのです!
そして台をゆっさゆっさ揺さぶり、手あたり次第にガラスケースを殴り始めました。
ここは森の中のゲームセンターですが、森のクマさんも真っ青な勢いです。
推し活もここまでくると限界オタク。
誰か止めてやれよと誰もが思っていましたが、こわくて誰も足が進みません。
黒いスーツの男たちが動いたのは、そのときでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます