LAA 赤ずきん 5
――その頃。
京王線に揺られ、とある駅で降りたオオカミは、駅ビルで赤いキャップを買いました。
現金はすべて赤ずきんちゃんに巻き上げられ……ではなく、軍資金として投入してあげたので、頼みの綱のクレジットカードを使ったのでした。
「〇EW ERAのじゃないけど、これもLAAのキャップだからバレないだろう」
そう、〇EW ERAのキャップでなくとも、探せばLAAの野球キャップはわりとどこでも購入できます。
さすが、大谷翔平選手は偉大です。
真っ赤なLAAキャップをかぶって、オオカミは森の中を意気揚々と進んでいきます。
やがて、赤い屋根が見えてきました。
おばあさんのお家です。
オオカミは赤ずきんちゃんを装って、コンコン、と上品にノックをしました。
「おばあさん。あたしよ。赤ずきんよ」
(さて、おばあさんをどうやって騙そうか)
らしい声を出していますが、オオカミのしわがれた声とJKである赤ずきんちゃんの声がちがうことは、五歳児でもわかるでしょう。
(おばあさんはきっと、扉越しにいろいろと質問してくるにちがいない。うん、それにちゃんと答えれば、家の中へ入れてくれるはず――)
「うふぉ?!」
そのとき突然、扉が開いたので、オオカミは前のめりによろけてヘンな声が出てしまいました。
「おやおや、だいじょうぶかい赤ずきんや」
「?!」
よろけたオオカミに手をさしのべてきたのは、まちがいなく赤ずきんちゃんのおばあさんです。
おばあさんはニコニコしながらオオカミの毛むくじゃらの手を取って立ち上がらせました。
「遠いところをよく来たねえ」
「え、えと……」
(いやいやいや! おばあさん! よく来たねえ、じゃねえだろ! ぜったい赤ずきんちゃんじゃねえだろ!)
オオカミは心の中でおばあさんにツッコミます。
おばあさんが握っているオオカミの手は毛むくじゃらですし、オオカミは赤ずきんちゃんよりずっと背が高いのです。
「あら、今日もLAAの赤いぼうしがよく似合っているねえ」
そう言ってニコニコと自分を見上げるおばあさんの鼻眼鏡を見て、オオカミはハタと思いました。
(そうか。おばあさんは、目が悪いんだ!)
もしかしたら、おばあさんは少しボケているのかもしれない。そして目が悪い。ならば、LAAのキャップをかぶったオオカミを赤ずきんちゃんだとカン違いしていても不思議ではない――オオカミは瞬時にそう判断しました。
「そ、そうでしょ、素敵なぼうしでしょ、うふふ」
オオカミはおばあさんに調子を合わせました。
「ええ、ええ、さあこっちに来てお茶をおあがり」
おばあさんはオオカミを家の中に招き入れると、椅子を勧めました。
リビングはきれいに片付いていて、家具もサイドボードもピカピカです。テーブルにはきちんとアイロンのかかったチェックのテーブルクロスが掛けられていて、焼きたてのクッキーがいい匂いをさせています。
絵本に出てきそうな、古き良き田園家庭のリビングルームです。
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