好き?風習?

「夜道は危ないだろうし送るよ……とは言ってもレティシアの家はわからないしただついていくだけになってしまうけどね」


それじゃ意味なくねとも思うが、そこは眼を瞑ってほしい。レティシアの家は村の中にあるのだろうからついでに村のようすもわかるかも知れない。


「そうだな……」


そんなわけでレティシアを家まで送ることになった。


「そう言えばここは結構王都から離れているんだろ?魔道具ってそんなに一般的なのか?」


家に入ってからずっと思っていることで魔道具はそこそこ高価で庶民にはまったく手が出せないイメージなのだが部外者である俺の家に置いてあるぐらいだからここではあまり高価なものではなく一般的に流通しているのだろうか。


「そこまで一般的ではないな。高い、扱いにくい、かさばるの悪いところしか目立たないものだ。村ではリュウノスケの家にあったのと長老がいくつか魔道具を持っているぐらいだ。リュウノスケの家にあった魔道具は長老以下村人たちが奮発して買ったものなんだぞ」


部外者の俺のために買ってくれたなんてなんて優しい村長たちなんだ。今度会ったらお礼を言っておかないと。


「なにより魔道具なんて使う必要あまりないんだ」


とレティシアは付け加えた。


「これがあるからな」


人差し指を立てると


「『ファイアトーチ』」


ポッと小さな炎が上がる。


「大体の人が規模こそ違いがあれど、魔法を使える。だからあまり魔道具がいらないんだ、そのくせ無駄に高いしな」


「ほぼ全員が持っているんだ、属性……人によって扱える魔法は違うのか?」


これでなんでも使えるなら、この世界の人達万能すぎる。


「もちろん違う。魔法はエレメイトと呼ばれるもので大まかに分類されるのだがそれが焔、水、風、地、光、闇の7つでそれぞれに適性があってそれがないと適性のないエレメイトはまったく使えなくなる。全エレメイトが使える獣人はほとんどいないし他種族も似たようなものだろう」


流石にそこまで万能ではなかったようだ。それにしてもエレメイトか、属性みたいなものだろう。折角の異世界だから魔法を使いたいが、俺が魔法を使えるかどうかは適性がまずあるかどうかを調べないとな。


「そのエレメイトはどうやって調べるんだ?」


「調べるか……長老だったら適性を調べられるだろう私も長老に調べてもらったからな」


村長のところに行けば良いのか。村長の家は知っているからいこうと思えばすぐに行ける。

それよりレティシアも調べてもらっているのかどの属性の適性があったのか純粋興味ある。


「レティシアは何だったんだ?」


さっき炎を使っていたから少なくとも焔属性はあるだろう。


「私か?私は焔と氷のエレメイトに適性があったな、対極にあるエレメイトのどちらともの適性があるのは意外と少ないんだぞ」


ドヤ顔でレティシアは教えてくれた。


「村長が暇なときに俺も調べてもらおうかな」


「なんだ、それなら明日はどうだ?明日は私も長老に話したいこと……と言うか提案をしにいこうと思っていたんだ」


できれば早めに調べたかったからそれは好都合だ。


「どうせしばらくは暇だろうしレティシアが良いなら明日村長の家に行こうかな」


「じゃあ明日龍之介の家に迎えにくる。寝坊しないでくれよ」


「分かってる、そっちこそ起こしに来たはずなのに自分が寝てました。なんてこと起こさないようにな」


レティシアなら起こしそうなので、一応釘を刺しておく。


「なっ、そんなことするわけないだろ!」


軽口をたたき合いながら歩いているとすぐにレティシアの家についてしまった。村のようすも見ようと思っていたがこの際どうでも良かった。


「じゃあまた明日」


「ああ、おやすみ、龍之介」


短い別れの挨拶を言い、帰ろうかと思ったとき


「ちょっとまて」


レティシアが声をかけて来た。


「何?」


俺の家に何か忘れ物でもしたのだろうか。


「あそこなんか光ってないか?」


レティシアが指をさす。


「?何処も光ってないと思うんだけど……」


右の頬に一瞬だけ柔らかい何かが当たった。


そちら側をむくとレティシアがいた。しかも顔が疑いようもないほど朱に染まっている。


「え?」


もしかしてさっき右頬にあたったのはレティシアの……しかも事故ではなくレティシア本人が故意にした……


「べ、べつにこれは好きだからじゃなくてなこの辺りではこれが当たり前なんだ!子供が寝る前には必ずやるんだ!明日、どちらかが死んでいるなんてよくあることだから、こうすれば死ぬ前に挨拶にいけるっていう風習があるんだ、じゃおやすみ!」


バタンと音がして扉が閉まった。


「……」


え俺ってレティシアの中じゃ子供なの?それともレティシアが子供なの?てか縁起でもないこと言ってたよね?なんとなくわかるけど。それよりも俺さっきキスされたよね?あれは本当に風習なのか?それでキスってありえるの?それとももしかして俺のことが好きだから?なにか別の目的が?

思考がぐちゃぐちゃな方向性で乱回転してしばらく俺は放心状態を通り越して仮死状態に陥ったのだった。


「はあ~」


いつの間にか家に帰ってきた俺はそのまま寝室のベットに倒れこんだ。


本当に俺、女子免疫なさすぎるだろ。頬にキスされただけで機能停止とかいくら彼女いない歴=年齢で相手が超のつく好みの人だからって……


「とにかくレティシア可愛い!これで終わり!」


強引にレティシア可愛いで終わらせる。


まあそれは置いておいて、これからについて考えねば。

暫くはここに滞在して情報集めと村人たちに認められるようなことをしよう。村人たちに認められるようなこと……大量の獲物を獲ってくることか、典型的なものだと井戸の改善か。そもそも村の生活レベルがまったくわからない。俺の家はレンガ造りだが、これが普通なのか、高いなのか、はたまた低いのか、それもわからない。

どちらにせよ、ここに永住するにしてもなにをするにしても、情報それと信用だな。

それから先は村の手伝いをしながらのんびりスローライフを満喫してもいいし、村を出て冒険者なんかになってもいいが、そんな先の未来は今考えても無駄だな。


ひたすら頭のなかで考えたが諦めて眠りについた。

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