デグチャレフPTRD1941とM1911A1

 仕留めたうさぎは、近くにあった川で解体しようとしたが、ナイフがないことに今更気付いた。


「いったい俺は、何でうさぎを解体しようとしてたんだ……アホか」


 ナイフを生成しようとするが、どうやらできない様だ。仕方がないので89式銃剣を召喚し、それで毛皮をはぐ。


「まぁ素人にしては、頑張ったかな」


 身が少し無駄になったが、気にしてもしょうがない。そこら辺で適当に拾った木の枝に、一匹ずつ刺して豪快に火で炙る。しばらくすると食欲をそそる香ばしい匂いが漂ってきた。溢れでる油でこんがりと焼けたうさぎを、豪快に一口頬張る。


「美味い! 色がアレだったから、毒とかないか不安だったけど、全然大丈夫だ」


 そのまま2匹目のうさぎを食べ終わったとき、かすかに硬いもの同士がぶつかり合う音が聞こえた、そこまで近くはないが、様子を見てきたほうが良いだろう。


「まさか……熊とかじゃないよね」


 自らフラグを立てるような発言をして歩き出した俺の歩みは、次第に全力疾走に変わっていた。

 おかしいあきらかに獣同士じゃない!

 そして音の出所にたどり着いたが、ここで痛恨のミスをした。盛大にこけたのである。戦闘が起きている真ん中に向かって。

片方はやはり人が戦っていた。こちらは突然の乱入者に動きを止めた。しかしそのお相手は違った。


「もしかして自分で、フラグ立てちゃった? よりにもよって熊ですか!」


 体長4メートル程、額に一本の角を持つ熊は、俺に鋭い刃物のような、かぎ爪を突き立てんと腕を振り下ろす。


 あ…これ死んだわせっかくの異世界、ただサバイバルして終わりとかひどすぎない? せめて可愛いケモ耳は見たかった。出来ることならモフりたかった……


すでにあきらめの境地に浸っていた俺の視界から熊の手が、弾き飛ばされる。


「そんなところで、寝転んでいないで立て! 死にたいのか!」


 突然の喝(かつ)に反射的に立つと、隣にフードを目深にかぶった人が立っていた。口調からして男だろう、それにしては少し声が、高いような気がするが……


「あ、ありがとう、助かった」

「それは二人とも、助かってから言って!」


 ぶっきらぼうに言うと、彼は熊に向かって走り出す。

 その光景に啞然としたがすぐに気付いた、いやもっと早くに気付くべきだった。


 その人が持っている剣は今にも折れそうなほどに刃毀れしていた。本人も気づいてるはずだ。だが時間は止まらない。熊に切りつけた剣は加わった力に耐えかねて中ほどからバキンと折れる。たたらを踏む彼はそのまま彼は薙ぎ払われた腕を回避する間もなく、弾き飛ばされてしまう。


「大丈夫か!?立てるか?とりあえず隠れられる場所を探そう」


 慌てて駆け寄ると端から見たよりも、ダメージを受けているのが分かった。、服の脇腹辺りが血で染まっていた。あばら骨も確実に折れているだろう。

 もう満足に戦える状態でもないのに、彼は起き上がって半分になってしまった剣を構え直す。


「お前だけでも……逃げろ……」

「おい待て!このままじゃお前も死んじまうって分かってんだろ?」

「別にそれは良い……どうせこのままじゃ……二人とも死ぬだけ……なら生き残る可能性が、あるほうを逃がす」


 それを聞いた俺の目の前は、真っ暗になった。

 生き残れない? 初対面の相手を捨てゴマにして自分だけ生き延びる、そんなことで良いのか?

 俺の能力(ミリタリーオタク)は何のためにあるんだ?

助けれるかもしれない力を持ちながら置いていく?それはあの時と同じなのではないか?

 頭の中で、火花が散った。


 そうだ、俺にはまだやれることがある。勝利条件は二人とも生き残ること。ならそのために俺は出来ることをやるまでだ。


「無理だな、目の前で死にかけてる人を見捨てられるわけないだろ!耳をふさいで伏せろ!」


 そう叫ぶと同時に、ホルスターからガバメントを抜く。

 初弾は装填済み、熊との距離は2メートルもない。すでに熊はこちらへ突進するための予備動作に入っている。今外せば二人とも、死ぬのは確定だ。

 俺はマガジン内にある、6発を目を狙って連射する。両手で撃ったにも関わらず、ガバメントは盛大に暴れまわるせいで照準(エイム)が定まらない。

 撃った弾の内5発は、外れたり硬い頭蓋骨に阻まれたが、なんとか一発だけ当たった。

 45ACPは眼球を貫通、使っていたのがホローポイント弾だったのもあり、左眼を完全に潰した。


「走って!って、その傷じゃ走れないか。掴まって!」


 まごつく彼の手を無理矢理取ると、傷がある脇腹ができる限り痛まないように慎重に急いでお姫様抱っこをして全力ダッシュでその場を後にする。


「おい!まだトドメを差していないぞ!」

「ごめん! 文句なら助かった後に聞くから!」


 先程焚火をしていた川のほうに向かって走る。

 ふり返ってみると、熊はまだ左眼の痛みに悶えていて当分は追ってこれなさそうだ。


「とりあえず逃げきれそ……またフラグ立ててしまった……折れば良いだけだが」


 一級フラグ建築士とでも名乗ろうかな、なんていうふざけたことを考えていると、さっきまで痛みに悶えていた熊は残った右眼でこちらを睨みつけ突進を始めた。もはや逃げ切ることは不可能になった。


「あの速度だと50……いや40秒ぐらいか」


 逃亡は絶望的。なら一か八か戦うだけだ。

 彼をそっと地面に降ろすと、すばやくリロード&発砲。熊の注意をこちらに向けさせながら、全力で走り少し坂になっているほうに行き、やつのほうに向き直る。


「距離的にも一撃で殺すしかないな、狙うなら頭部、ここしかない。頭蓋骨を貫ける弾丸となると……7.62㎜以上あれば安心だと思っていたけどあの弾かれ方だと心もとない、確実に貫くには12.7㎜以上が良い…だがそのレベルを使うものを、立射でまともに撃てるのか……とにかく迷っている暇はない」


 いつもの癖でブツブツ独り言を言っていると、熊は突進を開始。これ以上考えている暇はない。

 そして俺が召喚したのは、かつて対戦車ライフルと呼ばれ、圧倒的な破壊力を持つ銃。

 デグレチャレフPTRD1941……鉄パイプを加工して銃にしたような、簡素かつ特徴的な見た目の第二次世界大戦、ソ連で使用された、銃だ。


空中で3Dプリンターで作られていくように出現したPTRD1941は最後に銃口を形作ると落下グリップを握った俺の手に全体重15.75㎏を余すところなくかけてくた。


その重さに予想していたにも拘わらず振り回されて直立状態だった俺の体は前へと倒れかける。


「くぅ、どおぁりゃ!」


銃口が地面へ突き刺さる前に俺はどうにかPTRDを持ち上げボルトハンドルを引く。


「14.5×115㎜!」


ボルトハンドルから離した手に15㎝定規よりもさらに大きい弾薬がクリップにもマガジンにも入っていない状態でたった一発出現したと言ってもこの銃に着脱式でも固定式でもマガジンは存在しないからだ。

その巨大な弾薬を解放された薬室に直接ねじ込む。

16㎏近くある対戦車ライフルを片手で保持できたのは火事場の馬鹿力ということだろう。


 正真正銘一発限り。外せば再装填する間もなく俺もそして仕留められなければ彼も死ぬ。

 せめて相討ちには持ち込まなければ……いや他にどんな危険な生き物がわからない中では危ないか……つまり俺は生き残らないといけないわけだ。相討ちじゃダメか?ダメだな


「さーてどっちがロリ神に愛されてるかなぁ・・・なんつってな」


 己を鼓舞すべく、震えてしまっている声で軽口を叩いき、銃口を熊の頭部に向ける。

 距離3。 まだだ。いくらこれが高火力だからって

   2 外せば終わり。銃口を

   1あいつの頭に押し当てろ

   0。銃口が熊の頭部に触れた瞬間、引き金を引く、っと同時に後ろに吹き飛ばされる。背中を木にぶつけたが、目の前で血しぶきをあげて倒れる、あいつの姿が見えた。

 吹き飛びかけた意識を立て直すと、デグレチャフ対戦車ライフルを放り捨てて急いで彼の元に戻る。


 全身が痛んだが関係ない早く助けねば。

 戻ると、彼はその場に倒れていた。しかし、そこでやっと気づいた。


「そう言えば誰かのケガを治したことなんて今までないな・・・俺でも対処出来る事を祈ろうか、とりあえず傷の確認はしなきゃ」


 所々破けボロボロになったフードをとると、長い銀髪がさらりと流れた。血を多く失ってしまった顔は、この世の者ではないのではと思うほど神秘的で儚く、見とれてしまうほどに美しかった。しかし、今は見とれている場合ではない、まずは彼・・・改め、彼女を助けることからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る