帰れる家

村長が帰っていたので残ったのは、レティシアと俺だけになった。


「おーいレティシアいつまで倒れてるんだ?風邪ひくぞーほらとりあえず家に入ろう」


息を整えてから起き上がると、隣で息切れでぶっ倒れているレティシアに肩を貸してやって家に向かって歩き出した。


内装も別にいたって普通でシンプルなものだったが村長が言った通り、調理器具やベットなど今すぐに必要になるであろう家具や道具が揃っていた。


「うう……後ろから長老が来る……」


そこまで怖かったのだろう、いまだにうなされ続けているレティシアを近くにあった安楽椅子に腰掛けさせ、俺はひと息つく。窓から外を見れば、もう太陽は中天をすぎ夜へと近づいている。村に着いたときは、昼の少し前だったからかなりの時間がたっていることになる。


「まったく俺たちは、一体どれだけ村長に追い回されてたんだ」


頭をかきながらぼやく。


「レティシア……寝っちゃったか」


さっきまでうなされていたレティシアは、いつの間にかスヤスヤ寝てしまっていた。


「何はともあれ夕食の準備だな。野菜類は用意してくれているようだから肉類だけ調達すれば良いか。また鹿とかウサギとかいると良いんだけどな……っと忘れそうになった」


夕食のメインを捕りに行こうと玄関へ向かった俺はあることに気づき引き返した。寝室に行くとベットにたたまれている毛布を一枚掴み安楽椅子で寝ているレティシアにそっとかける。


「いつ起きるかは知らないが、まぁ起きたら勝手に帰るだろ」


レティシアの無防備な寝顔に、思わず笑みがこぼれる。


「行ってきます」


この世界で帰るべき家を手に入れた俺は前世でもほとんど口にしなかったその魔法の言葉を言うと俺は扉を開けた。


□ □ □


「流石にこんなに人里近いと、なかなか見つからないな」


家を出てから約1時間半これまでであれば既に1匹は獲れているのが、この付近は村の人も獲物を獲っていて少なくなっているのか、未だにウサギの1匹も見つけれていない。


「見つけれれば確実に仕留めれるんだかな……太陽もずいぶん傾いて暗くなってきているし、安全を考慮してあと1時間ぐらいたったら帰らないとな。さてどうしたものか……」


転生したときロリ神のはからいで夜目もある程度は利くようになっているが、それも絶対ではない。


「今回はここで切り上げるか、ただここで素直に帰りたくはないな。次への布石でも打っておくとしよう」


そして俺はある装置を10個ほど作り仕掛けると、帰路に着いた。


帰ったときには、ちょうど夕陽が沈みきったときだった。


「ただいま」


声をかけはしたが返事は返ってこない。家はもちろん真っ暗だった。


「ああそうだ村長に照明に関してきこう、なにも見えないし、そもそもあるのか?」


外灯もないためこれ以上暗くならないうちに、さっさと村長の家に向かう。


村長の家まで行き村長にきいたところ入り口入ってすぐ右に照明用の魔道具があるらしく、一定量の魔力を込めれば一晩中リビング一体を照らすレベルの光源が得られるそうだ。ついでに自分一人分の肉も分けてもらう住み始めて一日もたたずに厚意に甘えてしまったが、これは何かしらで返そう。受けた恩は絶対に返す。これだけは死んでも忘れたくない、一回死んでるけど


家に戻り手探りで、例の魔道具を探す。


「あったこれか」


魔力とはどんな感じで出すのかよくわからなかったが電子回路に電流を流すようなイメージで慎重にやってみる。


「……うまくいったな」


ほのかにオレンジの混じった優しい光が、部屋全体を照らした。


「照明もよし。さあ夕飯を作るか……」


伸びを一つして台所に向かおうとした俺の体が、不自然な格好で固まった。


「……どんだけ寝てるんだよ、ここ男の住んでいる家だぞ、少しは警戒しろよな」


安楽椅子でいまだにレティシアが寝ていらっしゃるのだ。しかもどう器用に動いたのか、俺がかけた布団はそのままに自分の狐のようなモフモフの尻尾を枕にしている。

その姿はとてつもなく可愛いのだが、どうすれば良いか対応に困る。


「眼福ではあるんだが……どうしたものか……」


ただ呆然と呟くしかなかった、機嫌を損ねてしまう危険があるが起こすかそれとも自然に起きるまで放置するか。


「うーむ……ほっとくか、無理矢理起こすのもかわいそうだし」


結局後者を選ぶことにした、本音を言うとかわいそうよりも可愛いと言う感情のほうが大きかったが。


「気を取り直して料理を作るか」


台所につくとコンロの中に石のようなものが一つ入っていた。恐らく例のごとく魔導具だろう

試しに魔力を流すが、さっき魔導具を上手く使えていたからと慢心して魔力を一気に流し過ぎてしまった。過剰に反応した魔導具から勢い良く炎が吹き出た。


「あっつ!」


慌てて流していた魔力を止める。


「力加減を間違えないようにしないと火事になる。まさかだけどこれがデフォルトなんてことはないよな」


今度は慎重に魔力を流すと小さな炎ができた。調整出来ることにホッとして今後、魔力は少量から流すようにすると心に決めた。


近くにある野菜かごの中をみると人参や玉葱っぽいものから形容しがたい謎の野菜まで実に多種多様な食材があった。


「この食材が前世と同じなのを信じて作るか、だがあまり俺もレパートリーは多くないんだよな。基本的にお菓子のほうばかり作っていて夕飯の1品に出来るやつはあまりないからなぁ」


熟考した上でここはシンプルにコンソメスープでも作ってみようと思った。村長が気を利かせてコンソメみたいなのを入れてくれたし、コンソメを使ったもので簡単ですぐに作れるのはこれくらいしか知らないからだ。


「食材切って炒めて煮るだけ最後に味を調えればすぐ完成だ」


我ながらあまりにも適当だとは思うが、気にしたら負けだ。


「それやっている間にデザートを」


前世でもよく家族のために作った思い出のデザートを作ることにした。

それも4年前の話だが……


後はオーブンに入れて焦げないように確認しながら焼けば完成。


どんどん料理が出来上がっていくにつれあたりにいい匂いが立ち込めはじめた。


「なんだ、この匂いは」


寝ていたレティシアが起きてきた。


「なにって夕飯だよ。今作っているんだ」


「そんなに寝ていたのか……すまない長居してしまったな帰……」


出ていこうとするレティシアのお腹から、そこそこ離れている俺の耳に届くぐらいの音が聞こえた。


「……夕飯食っていくか?」


顔を赤くして硬直したレティシアに話しかける。


「……いいのか?」


「ぜんぜんいいよ、どうせレティシアが寝ていた時点でこうなるだろうと二人分作ってるから」


レティシアが帰ってから寝てた時点でこの結末は大方予想がついていたから予め二人分作っていたのだ。

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