マシンピストルとケモミミ

「よろしく頼む、とは言っても1週間後だけどな。今日のところは暗くなってきたことだし寝るか。俺のことは気にせず、焚き火の近くで寝るといいよ」


 話も一段落ついたことだ。立ち上がって俺は近くの木に背中をあずける。


「お前はこっちで寝ないのか?」

「またドーラグリズリーみたいな魔物がきたらヤバいからな。すぐ動けるようにしとかなきゃ危ないだろ?」


 レティシアは納得いっていなそうだが・・・このまま理性がぶっ飛びそうなので遠慮する。


「このまま食い下がっても来てくれないだろうな……任せたリュウノスケ」

「任された。お休み、レティシア」


 焚き火の近くで寝転がったレティシアは、しばらくするとスースーと微かな寝息をたて始めた。

 レティシアが寝ている間に俺は使用した銃の手入れを始める。なんせこの世界にはあきらかに存在しないものだからな。直接構造を見せるのは少し憚られる。

 黙々とパーツを分解しえはそれを組み合わせるプラモのような作業を繰り返す。

 っと、ふと思った。俺の能力は銃を召喚した後自由に分解が出来る。なら自分オリジナルの銃も作れるのではないのか?

 ということで、早速試してみる。適当に組み合わせそうな銃を召喚する。そして必要部分を取り出すために分解し、組み立てる。


「ふぅ……できあがると思ったより感動的だな。文句なしの1丁ができた。」


 そうして作り出された銃は、もはやハンドガンと言えるか怪しい奇形のものになった。外観はグロック18だがスライド上部が長くなっている。また、小型化したp90のマガジンがついていて、グリップ内にあるマガジンと切り替えられるようにレバーを増設、ダストカバーの下には近距離の牽制用にスライド式になって格納されている刃渡り15センチの刃がついている。

 薬莢は既存のハンドガンと同じく真横から排莢される構造になっていて、上部のマガジンには5.7×28㎜弾が40発。グリップ内マガジンには9×19㎜パラベラム弾が18発入るようになっている。

また5.7×28㎜弾を撃つときはダストカバーの下に銃剣と干渉しないようにについている5.7×28㎜弾用の銃身を9×19㎜弾用の銃身と入れ替えることによりどちらの弾も撃てるようになっている。

 完全に小学生が作った『サイキョ―なぶき!!』レベルのものだった。


「どこかの自分で自分専用機を作ってしまう異世界ロボット系の主人公が『ないなら作れば良いのです!』とか言ってたが本当に作ってしまった、自分専用の銃!」


 男子が一度は憧れる自分専用の武器、それを俺は手に入れた。ついでに同じものをもう一挺作る。

 そうこうして遊んでいると、暴力的なまでの睡魔が襲ってきた。


「さすがに寝なければ・・・こっちでも過労死とかシャレにならない・・・」


 そのまま俺は焚火の火を消して、俺は木の根元に寄りかかる。目を閉じるとあっという間に深い眠りについた。


□ □ □


 ん・・・なんだろうこれは。腕の辺りにフワフワしてモフモフな肌触りの何かがある。

 しかもとても良い香りがする・・・っと、そこで完全に目が覚めた。


「っ!」


 危うく悲鳴をあげそうになったが、寸前でこらえる。なぜなら、焚き火の近くで寝ていたはずのレティシアの寝顔が何故か目の前にあった。

 とりあえず、一旦落ち着いて状況確認。自分専用銃を作ってから俺はどうした?

 ・・・どれだけ記憶を辿ってもレティシアのところにいった覚えはない。よく見ると、絶賛事件勃発中の現場は俺が寝た木の根元だ。

 つまり、俺はほぼ100%無実なのが判明した。しかし、問題はまだ片付いていない。右腕ががっちりとレティシアにホールドされていることだ。このせいで半強制的にレティシアと向かい合っているわけだ。その距離、わずか数センチ。


(と、とにかく、どうにか脱出しなければ)


 まずは右腕の救出にとりかかる。ただ、がっちりホールドされているためなかなか抜けそうにないし、しかもヤバいのが少し動かすごとに腕に発展途上のなにやら天使な感触が伝わってくる。


(俺の理性よ持ってくれ!事故とはいえバレたら半殺しにされるかもしれないんだ!)


 そんな死闘を繰り広げる事約5分。やっと腕を救出出来た。いざ離れようとした時、またしても問題発生。さっきまで自由だった左腕に、モフモフの正体が巻き付いたのだ。

 それはレティシアの尻尾だった。そう、フワフワ~モフモフ~のSHIPPO!である。

 この時点で悟った。


(もうこれは逃げられない)


 腕に尻尾が巻き付いてくれたとでも言うのだろうか、その時点で俺の敗北なのである。圧倒的ケモミミ好きである俺に対し、この状況は完全に悪魔のささやきの圧勝試合だった。善良な天使など、現れることすらなかった。


(レティシア、ケモ耳とか持ってたのにどうやって隠してたんだろう・・・)


 死への余命宣告をうけた俺はレティシアが起きるまでひたすら現実逃避をしていた。



□ □ □



「ん……」


 永遠にも思える時間も、ついに終わりを告げた。

 遂にきてしまった。約束の時が。


(もうどうにでもなってしまえ!)


 白いまつ毛が震えた後、ゆっくりと瞼(まぶた)が開かれる。


「やあ・・・おはよう・・・」


 とりあえず、朝の挨拶をしてみる。

 しばらくぼーっとしていたレティシアは、ぽけ~っと俺の顔を見ると、耳まで顔を真っ赤に染め上げ、目にも留まらぬ速さで距離を取り、素早く俺に剣を向けてきた。


「りりリュウノスケ!?なにをやっているのだ!」

「待て待て誤解だ!いや、少し違うけども・・・とにかく!お前が寝てたのはそこの焚火!ここは俺が寝てた木の根元だ」


 状況を簡潔に説明し、焚火を指さす。レティシアは指さす方を見て、そして俺の顔を見る・・・


「あっ・・・すまないこれは私の失態だった」


 そう言ってレティシアは頭を下げた。


「私は夜が昔から苦手なのだがそれでもいつも一人で寝ているのだ。だが目が覚めたときにリュウノスケがいたからつい……寝ぼけていたのもあるのだが……」


 顔を真っ赤にして俯くレティシア。

 ああ、耳と尻尾がしゅんってなってる、この可愛さよ。ケモミミ好きじゃなくても共感を抱くほどにヤバい。何がとは言わないが、とりあえず、グッとくるものがある。


とりあえず、何かこのしおらしい空気を変えるべく、1番気になっていることを聞いてみた。


「レティシアって尻尾あったんだね、全然気付かなかった。」


 顔を伏せていたレティシアは少しだけ顔を上げおずおずと

「普段は髪にうまい具合に紛れさせているんだ。この国では特に亜人への差別が多いから・・・」

とだけ言いまた顔を伏せてしまう。

 完全に地雷を踏み抜いてしまい、さらに空気が悪くなる。

いて。

「あ、えっと!俺は好きだよ、その尻尾!フワフワしていてモフモフしてなんなら結婚したいぐらいだよ!」

「そ、そうか?じゃあ・・・リュウノスケと一緒の時は、隠さないようにしておくよ」


 再度顔を赤く染めるレティシアは、はにかみながら笑った。

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