飛矢

はにかむレティシアの笑みに、俺も微笑んでしまう。


「そうしてくれると嬉しいよ。」


 気まずい雰囲気もどうにかすることができて、さらにフワフワモフモフの耳と尻尾がこれからも見れるようになった。GJ(グッジョブ)、俺。

 

「もうすぐ夜が明ける・・・そうだ!朝日を見に行かないか。この近くに、私のお気に入りの場所があるんだ」

「良いけど・・・ってレティシアなんか顔が赤いけど大丈夫?」


 まだ若干暗いが、レティシアの顔が赤くなっているのが見てわかる。


「大丈夫だから気にしなくて良い。ほら、行くぞ」


 レティシアは俺の手を掴むと早足に歩き出した。

 それから3分ぐらい歩いて行くと、小高い丘に出た。


「おお、開けてて眺めがいいな。森全体を見まわせる」

「私の亡き母が教えてくれた場所だ。他の人には教えていない場所だから、秘密にしていてほしい」


 お気に入りの場所を褒められてまんざらでもない顔をしたレティシアは、東の方向を向く。


「ほらあそこ、太陽が出て来た」


 全てを黒に染めている闇を押しのけ、世界を色づかせる陽光を放ちながら、太陽が昇ってくる。


「うわぁ・・・」


 目の前には日の光を浴びてダイヤモンドのように輝く木々達の、美しい風景が広がっていた。


「リュウノスケ。私は朝日を見ながらいつも母から思い出すんだ。『朝日と夕陽はどっちも綺麗だけど、何で朝日はキラキラと輝いてると思う?』と。その答えは結局聞けなかったんだ。リュウノスケは、どう思う?」


 レティシアは朝日を眺めながら、そんな問いを投げかける。


「それは・・・朝日が、全ての始まりだからだと思うよ。今日の仕事の始まり、今日の学校の始まり、そして、今日という日の始まり。夕陽も確かに綺麗だけど、それは終わりの美しさなんだと思う。美しいっていうより、儚(はかな)いって感じかな。今日と言う日の終わりを告げるのが夕陽、なら今日と言う日の始まりを告げる朝日は、世界を一際輝かせるために強く輝く・・・なんてね。厨二病過ぎて、なんかキモイな」


  マジで自分で言ってる間にキモくなってしまった。ポエムのようでこっ恥ずかしいけど、それが俺なりの答えだ。

 レティシアの方を向くとレティシアは晴れ晴れとした顔をしていた。


「そうか・・・そう言う答えもあるのか。いつか自分なりの答えを見つけられると良いな」

「レティシアのこの質問の答えはそれこそ人の数、星の数だけあるよ。俺のこの答えもそのうちの1つ過ぎない。もしかしたらその答えを見つけられるのは死ぬ瞬間なのかも知れない。ゆっくりと探せばいいさ。さて朝ごはんでも調達しに行きますか行こうレティシア」


 今度は俺がレティシアの手を引いて歩く。

 実際俺は死んでからその答えを見つけたようなものだ。むしろレティシアと出会わなければ死んでも答えは見つからなかったのかもしれない。


その後なんやかんやありはしたが一週間が経過した。

とは言っても5日目あたりからレティシアが食料調達を手伝うと言って聞かず手伝い始めていたのだが……


「リュウノスケ。もうすぐ村につくぞ」


レティシアが器用に後ろ向きに歩きながら言う。


「レティシア、まさかだけどいきなり襲われないよね。」


今さらながら心配になってきた。


「大丈夫。今向かっているのは私の故郷だ。心配しなくても皆親切で優しいぞ」


「なら大丈夫か……」


ほっと安心して周りへの警戒が薄まっていたが耳にヒュッと風切り音が聞こえた。


頭では理解していなかったが体は反射的に反応して後ろに一歩飛びのく。


「うわ!危な」


さっきまで立っていた場所に矢が同時に2本刺った。


「人族がなにやっている!」


レティシアと同じ耳と尻尾を持った青年が怒号とともに現れた。


「よくもレティシアを・・・」


 持っていた弓を放ると剣を抜き放つ。


「待て待て!ひとまず話を・・・」

「人族の話など聞くわけもないだろう。おとなしく死ね!」


 剣を大上段に構えると、一息に間合いを詰めてくる。

 とっさに召喚した三八歩兵銃で振り降ろされる剣をなんとか逸らすが、木製のフォアエンドが大きく削れる。

 青年は大きく後ろに下がる。


「ほう?なかなかやるな」

「それはどうも」


 不敵に笑いながらも、背年はもう一度剣を構え直す。

損傷した三八歩兵銃を消し、また新しく召喚する。AK47なんかのほうが取り回しが良いが、殺すわけにはいけないから銃剣付きの三八にした。これならもとの長さで槍のように扱える。


「さあかかってこ……」


気合いを入れなおす必要はなかったなぜなら……


「おーまーえーはー何やってんだ!」


レティシアがいったいいつ取り出したの折れた剣を鞘ごと引き抜き青年の後頭部を思いっきり打ちつけた。


「リーク!龍之介は私に何もしていない!むしろ私をドーラグリズリーから守ってくれたんだ早とちりし過ぎだ!」


スリッパを握りしめてレティシアは叫ぶ。


「だいたいリークはいつも考えるより動いてあのときなんか」


「痛え……いくら幼馴染みだからって叩かなくても」


そこにはエンドレス説教中のレティシアとさっきまで俺を殺る気満々だった青年が頭を抑えながら座っている(なぜか正座)不思議な光景が広がっていた。


「レティシア幼馴染みってどういうこと?」


さすがに青年が可哀想に思えるので、素朴な疑問とともに助け舟を出すことにした。


「ん?ああこいつはリーク。私の幼馴染みで今から向かおうとしている村の住民でもある」


青年改めリークのほうに視線を送る。


「へっリークだ……さっきは悪かったな」


ぶっきらぼうに言うとそっぽを向いた。


「まったく……ちょうどいいリーク先に戻って村長に話してきてくれ」


「レティ大丈夫なのか?人族と二人きりは危険だ。俺も残る」


リークはすっと立ち上がると食い下がる。


「はいはい心配してくれてありがたいのだが、リュウノスケは信頼できるから安心しろ。ほらさっさと行け」


しばしの沈黙の後リークはしぶしぶといった感じの顔をしながら。


「……わかった。おいリュウノスケとか言うやつ。もしレティシアになにかしたら殺すからな!」


捨て台詞を残してリークは森の中に消えた。


「はぁまったく……すまないリュウノスケ、リークが迷惑かけたな、では行こうか」

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