せっかくの異世界転生なのに手違いで選んでしまったのが銃って夢がない？

第1話 前日譚

「リーダー！　そっちに最後のワンパ行きました！　」

「了解！　餓狼（がろう）はベータ地点を引き続き監視」

　そう仲間に指示を送ると、俺は侵入してきた敵チームの迎撃（お出迎え）に向かった。

　俺が今プレイしているのは、フルダイブ型FPS『ガンサイティング・サバイバブ・オンライン』、リアリティに重きがおかれた、総プレイヤー数７億人を超える大人気オンラインゲームである。

　俺はそのゲームのトップチーム『ASPECEエーススペック』のリーダーだ。

「1、2、3、4人っと」

M1ガーランドで4人まとめて戦場から強制退場してもらう。

「残弾はまだあるけど別にいっか、これよりこっちを使いたい」

M1ガーランドを適当に放り、腰のホルスターに手を伸ばす。

「やっぱりこれだよね、そこに隠れてるの分かってるよ」

引き抜いたハンドガンで、近くの壁に一発だけ撃つ。このゲームは跳弾も発生する。

放たれた弾丸は数十回跳弾し、俺から見て５０ｍほど離れた右側の曲がり角に吸い込まれていった。

「ぐっ」

そこから僅かに呻き声が聞こえた。

「見つけた。まぁそのずっと前から気づいてはいたんだけどね。生き残った中で1番強そうだったし。だけど君が最後の1人」

相手も俺に気づかれたことを確信したのだろう。

腹を括り俺に向かって2丁持ちしたM4A1カービンを連射する。

「へぇ凄いなアサルトライフル2丁持ちって相当やりこまないと反動も抑えられず吹き飛ぶんだよね。俺もやりたくてやったことがあるけど吹っ飛んじゃったよ」

正確に心臓や頭を狙ってくる弾丸を最小の動きで回避。

全ての弾丸を回避相手がマガジンを交換し終えると走りだす。

「くっくるなーー！　」

アサルトライフルの連射を全て避けきったと言う事実に動揺を隠せない相手は叫びながらひたすら連射する。

「照準がブレブレだよ、うわっ危な」

チュインと弾丸が髪を数本巻き込みながらすぐそばを通り抜ける。

だが途中にある遮蔽物は一切使わず弾丸を回避、どうしても出来ないものは、腕に付けた腕甲わんこうで逸らす。残り３０ｍ

「でもすごいよ、最後の1人になっても逃げずに挑む勇気があるなんて。萎え落ちとかしないだけ物凄く紳士的だし賞賛出来るよ。ま、この大会では自発ログアウトなんて出来ないけどね」

距離が近くなってゆくにつれて、もちろん発射されてから着弾までは短くなる。

左手の腕甲（わんこう）は目まぐるしく動き回るがそれでも全ては逸らしきれない。

右手に持ったハンドガンの側面も使い弾丸を逸らし続ける。残り１０ｍ

「流石にこれ以上は全て逸らしきる自信な、スピード上げよう」

一瞬だけ身を沈めさらに加速する。

放たれる5.56mm弾の夕立の中を火花という雫を撒き散らしながら突き進む。

だが敵も流石はトップクラスのプレイヤー、パニックに陥りながらもしっかりと俺に弾丸を浴びせようとする。残り１ｍ

「！？　どこにいった！　」

反応から見て相手の視界から俺が消えたのだろう。もちろんバグなどではない。

「どこだ！　どこにいるんだ！　出てこ……」

「危なかった、左肩の所に一発当たってる、あと少しずれてたら心臓に当たってた」

後ろからポンッと肩に手をおく……残り０ｍ

「～～！！　」

敵は即座に振り向きまた弾丸を浴びせようと試みる。

「残念、ゲームオーバー」

俺はハンドガン…愛銃のコルトⅯ１９１１A1を握り締めると最後に残った不幸（幸運）な敵プレイヤーの頭を即座に狙い、撃ち殺すために必要な最低数の弾丸で葬る。

「とても楽しいひと時だったよ、ありがとう」

最後の敵プレイヤーが地面に倒れ伏すと同時に頭上に死亡判定のアイコンが立った。

けたたましいファンファーレが鳴るなか空中に花火が打ちあがる。

「リーダー！　今回の大会も優勝できましたね、にしても不思議ですよね、リーダーこんな世界1のチームを決めるような大会でいつも旧式の銃を使ってますよね？もっと強い銃を使えばもっと簡単に敵を倒せるでしょうに」

「旧式だけど、うまく使いこなせば強いよ。何より俺はこの銃が好きだし、それに前、別のチームでやったとき普通にＧ3使ったんだけどワンサイドゲームになってしまってね運営から禁止されたんだ。だったら自分の好きな銃を使って楽しみたいなってあと技術向上のためにもね。さて大会も終わったことだし俺は落ちるよ」

「はい！お疲れ様でした、今度M1ガーランドのコツ教えてください」

「暇な時があったらね。どうにか会社から休日をぶんどってくるよ」

メニューを開き『ログアウト』と書かれたボタンを押す。

「ふぅ～最近他のプレイヤー、対策しっかりしてきてるな、軽機関銃2丁持ちしてくる奴が出てきたら1発くらうだけじゃすまないかもな」

ため息をつく。右腕にも腕甲（わんこう）を付けようかな？でも利き腕だから動かし易さを考えるとあまり重くしたくない。

「まぁいっか、それより日課♪日課♪」

１LKの狭い部屋には壁という壁に本棚が設けられ、隙間なくライトノベルが収められていた。

そしてクローゼットとタンスの中には大量の銃。

「これやっておかないと腕が鈍るからな」

その内の1丁を取り出す。

ついさっきお世話になったM1911A1、コルトガバメントのエアガン。

「マガジンよし、ガスもしっかり入ってる」

マガジンの点検をすませるとスライドを引き部屋の対角線にある紙製の的を狙い６連射する。

「うん！　大丈夫だな」

的にはど真ん中に当たった1発を中心に星を描いた。

「さてと今度は……あれ？」

突然視界がぐらりと揺れ世界が９０度傾いた。否、俺が倒れたのだ。

「なぜ倒れた？　早く立たないと」

そう思うも立とうと床につけた手は力なく床を滑る。

よく考えれば俺はここ数日まったく寝ていない。

労働基準法を完全に無視した会社で働かされ、疲れを癒すために趣味に没頭の繰り返し。

過労になるのも当然である。

「これ死ぬかな…まだ読み終わってないラノベもあるのに……」

ふと視界の端にガバメントが見えた。

「あ……片付けないと……見つけてくれたときに騒ぎになる……」

そんな場違いなことを考える。

「社畜はもう勘べ……」

薄れゆく意識はギロチンでも落とされたかのように突然途切れた。

こうして今井 龍之介（いまい りゅうのすけ）の人生は幕を閉じた。