九曜三之助の民話伝承編纂集

雪上 理来は頬杖をつき、ゼミの教室で他の生徒が自己紹介していく様子を横目に眺めていた。
成績は上の中。
何をやってもそこそこ出来たので挫折を味わうことなく何事もこなしてきた。
見た目も上の中。
女子からも意味あり気な視線を送られて辟易することもしばしば。
「九曜と言います。この学部に入学した理由は自分の足で調べて、民話や伝承の調査、編纂をすることを生涯の目標としたからです」
堂々とそう言い放った男に教室がざわめく。
九曜　三之助はＳ大学で民俗学を専攻する生徒の一人。
たまたま、雪上と振り分けられたゼミのクラスが一緒だっただけの人物。ただそれだけのはずだった。
生真面目な言葉を吐き、どれほど優秀な逸材かと思い、顔を拝んでやろうと視線を向ける。
雪上よりも二十は年上。
黒の作務衣に坊主姿の男はマ…続きを読む