食卓から世界が見える

★★★★★Brilliant!!!!!
星が足りなかったので足しました。
今年読んだ短編の中でも、一番出逢えて良かった作品です。

物語の始まりは、ある夫婦の日常を切り取ったような食卓風景。具体的な背景は描写されず、彼らが口にする「スープ」の名称さえ避けられているのですが、現代社会に生きる人には察しがつくかと思います。

実際、帝政ロシアやソ連の時代から厳しい情報統制や弾圧が行われ、その抑圧下でアネクドートなどが生み出されてきたわけですが、この作品もそうした社会構造を示唆するかのように、様々な暗喩が巧みに用いられています。
鉛のカーテン、赤いスープ……一つの言葉を、シーンを、思い浮かべる度に、その向こうに「言葉にできないもの」が見えてくるような気がします。
それだけに、読み返すたびに深みが増し、想像が広がります。

本当のところは、その地で暮らしてきた人にしかわからないでしょう。善悪の基準すら時と場合によって変化します。
この作品は何かを断じることも押し付けることもしません。読んだ人が想像し、その先を自分で考える、そんな作品だと思います。

たしかな文章力で短くまとめられた、読みやすい物語ですので、ぜひ一度読んでみてください。

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