間奏曲 Part3

 夏休み。天花は晴香と待ち合わせて学校図書室へ出かけた。晴香はTシャツにジーパンという軽装だったけど人の目を惹かずにはいられない美しさがあって気が引けた。

「天花ちゃん、今日もおしとやかだね」

晴香はそう言ってくれるけど、スカートにジャケットを合わせただけの普段着。

「お世辞でも晴香にそう言われるとうれしい」

 そう返すと晴香は「本気で言ってるのに」と少し拗ねた。


 休み中の開館はあまり混んではいない。この日の開室時間は午前中のみで司書の先生がおられただけだった。

 先生は閲覧席で静かに読書や自習に励む2人のところにくると「捗ってる?」と声を掛けてからある事を切り出した。

「2人ともちょっと職員室に行く用事があるけど誰か来たらそう言ってくれるかな?」

 晴香はあっさり「いいですよ。私達は開館時間の間、いるつもりでしたし」と言ったので天花も頷いた。


 先生が図書室へ出ていくと晴香と天花2人だけになった。

「ねえ、天花ちゃん。ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど」

 天花は本から顔を上げると晴香を見つめた。頷く天花。

「晴香のお願いなら出来る事はする」

「答え、早いね」

 目を細めて肩をすぼめる天花。そんな天花に微笑む晴香。

「私は自分の事を違う世界から来た人だって思ってるんだ」

 天花は晴香が言い出した事に驚いた。本気なんだろうかと思ったけど顔には出さないようにした。

「晴香がそういうなら何か理由はあるんだと思うから。分かった。信じる」

 そういう天花の反応に喜ぶ晴香。

「でね、元の世界とは本を通じてやりとりができるような気がしてるんだ」

「そう」

 天花の表情をよく見ようと顔を近づけてくる晴香。

「信じてない?」

 慌て気味に首を横に振る天花。晴香が近すぎて眩しかった。

「私は晴香の言う事は信じている」

 真顔の天花。それをうれしく思う晴香の笑みは天花の喜び。

「そう。じゃあ、信じて。私は別の世界からこちらの世界に来た人。そして元の世界とは本でつながっていると思ってるんだけど」

 どう答えたものか天花に一瞬迷いが生じた。

「……晴香は私に何を頼みたいのか単刀直入に言ってみて」

 少し考え込んだ晴香。踏ん切りをつけるように願いを告げた。

「そうだよねえ。私は元の世界の記憶を持ってないけど何かあると信じている。そしてそれは本の内容が変化する事で告げてくれると思っている」

「晴香の私への願い事がよく分からない」

 晴香は棚から取り出しておいた本を手にすると天花に差し出してきた。

「この本は私が毎日チェックしてるんだけど」

 そういうと晴香はちょっと黙ってから願いを告げた。

「この本のチェックを天花にも手伝って欲しい」


 その本は田染たしのぶ遥香という人が書いた本だった。晴香の話では本の目次と最初のページ、そして奥付のどこかに向こうの世界から晴香に当てた連絡があると本の内容が変わって分かるのだという。天花には理解し難い話だったけど、晴香の事が大好きな天花にとっては「手伝う」以外の回答は考えられなかった。

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