第1楽章 春 Part2

 円井悠太の話に口を挟まずに聞いていた音田は腕を組むと笑みを浮かべた。

「ふーん。そうなんだ。でも図書委員は個人の資料の使われ方を詮索してあまつさえ妨害とかいいと思う?」

 悠太は話の行方が分からず首を傾げた。

「ダメですけど。この件は違うと思うんです」

 音田が微笑みを崩さなかった一方でミアキは渋い顔になった。音田は悠太の疑問に質問で返した。

「じゃあ、こういう話はしちゃダメってわかるよね?」

 怒ってはいないけど指導は必要だ。

「はあ。でもああいう変な人を招き寄せる本って図書館に来る人が減ると思うんです」

 ミアキは思わず刺々しく口を挟んだ。

「ねえ。変な人って君が決めるの?」

 悠太は一瞬驚いたようだったがすぐ朗らかそうな表情に戻った。

「あいつに関しては同中の10人が10人そう言いますよ」

 ミアキはじっと悠太の目を見つめた。

「そう。私も見かけたけど別に普通の利用者だと思うよ。私に言わせれば一人一人本の読み方、使い方は違う。あの子もその範疇。ごく普通の利用者」

 悠太はキッとなるとミアキを睨みつけた。

「でもあいつのせいで図書室に行きたくないって人もいるんですよ!」

 音田は淡々と悠太に告げた。

「そんな理由で来ないのなら無理にとは言わない。でもそれって本当に正しい事なのかよく考えて、ね」


 不満げな表情を顔に貼り付けた悠太は音田先生とミアキを説得する事を諦めたのか「はい」とだけ言うと事務室を出て行った。


 ミアキは左手首の赤いデジタル腕時計をチラッと見るとため息を吐いた。

 音田はミアキの様子を見て取った。この子は昔からこういうのを嫌う。彼女の姉はこの学校の卒業生で音田より1個下の学年だった。姉の高校の文化祭を見に来ていたミアキは海外ミステリードラマオタク。音田と意気投合して以来の「友人」関係。ミアキの直情ながらも論理重視の性格、思いはよく理解している。

 音田も音田で悠太の嫌な思想を覗き込むハメになって嫌な気分。図書館とは何か分かってない事もあるけど件の生徒に対する陰口の存在が気になった。

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