最終楽章 季節は巡る

 4月。春が来た。桜が舞う中、新入生が入学。部員/委員争奪戦の季節でもある。古城ミアキ委員長は新入生への課外活動説明会に向けて文案を練っていた。

「音田先生、委員長が2期連続ってアピールになります?」

「それは伏せておいた方がいいんじゃない?委員不足がバレルよ」

 しかめっ面のミアキを見て笑う音田。そもそもこの委員会に引き込んでくれたのは誰かといえば音田しのぶちゃんな訳でいくら小さな頃からのお友達でもひどいなって思う。まあ、それを含めてしのぶちゃんな訳なんだけど。


 ミアキは2年連続で図書委員長を務めていた。もともと3年生委員が音田の図書館と図書委員会の再建案に対立して全員退会しており、そんな中で火中の栗を拾うのを承知で音田しのぶを小さな頃から姉のように慕うミアキが引き受けた経緯があった。一度廃れた図書館と図書委員会。簡単に復活する訳がなく、それはそれでチャレンジのしがいがある事でミアキも嫌いじゃないから2年連続で委員長をやっていた。その任期も新入生リクルートを終えて夏前には終わる。


 昨年ミアキが音田に相談していた1年生委員は1人だけ追加獲得に成功していた。もっともその前に退会者がいたのでプラス・マイナスゼロではあったが。その子は連日図書室にやって来て自分が借りた本の処理をするとすぐカウンターの貸出事務と本を書架に戻す作業など淡々とこなしていた。今日も彼女のルーチンはいつもの通り。図書室の第三の主だとか言われている。

 ミアキは一仕事終えるとカウンターに入って図書委員長の右腕となってくれた少女に声をかけた。

「天花ちゃん、次の選書希望の本はピックアップしてる?」

 天花は委員長の先輩を見ると頷いた。

「新入生によく来てもらえそうな気になる本があったので数冊」

 濃紺のブレザー姿のミアキは獰猛な笑みを浮かべた。

「次の選書会議でのバトルが楽しみになってきた」

「でも先輩も音田先生の希望リストもいい本が多いですから」

「それを弾き返して委員の希望図書をねじ込むのが選書会議の醍醐味でしょ」

 天花ちゃんはこういう時、すごくニュートラルだ。

「古城先輩の楽しみはよくわかんない事がありますが、みんなにとってベストな本が選ばれていればいいと思うんです。だから自分の希望には拘りたくないです」

「言うね。私はやっぱり自分が選んだ本がベスト。そこは人それぞれだからいいんだけど」

「そうですか?」

「そんなもの」

 そこに音田しのぶの声が被って来た。

「ミアキちゃん、挑戦の姿勢は大事ねえ。次の選書会議楽しみになって来たわ」

「先生には負けません」とミアキはキッパリ返した。

「……私も古城先輩を見習って音田先生に挑戦してみます」天花が闘志を彼女なりに表明して来た。

 ニッコリとするミアキ。思わず後輩にサムアップしてみせた。

「そうそう、天花ちゃん、その意気や良し!」

「天花ちゃん、悪い先輩を見習っちゃ嫌だなあ。まあ、私は誰の挑戦でも受けるけどね」

 そう言い合う3人の笑い声がカウンター内を響いた。

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亡き親友のためのパヴァーヌ 早藤 祐 @Yu_kikaze

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