第185話 俺の仲間について
ここは西方都市の地下に広がる迷宮の最下層。
集団戦が十分に出来るほどの空間が大きくとられ、昼間のような明るさが確保されていた。
焦げた空気が流れていく。
石版が敷き詰められている室内の中央には純白の翼竜が鎮座し、私の背後には分析班の3人が控えていた。
離れた位置には西方都市の領主とその他パーティメンバーが、こちらの動向を見守っている。
特徴のない容姿をした黒髪の青年が、私がミミックを破壊した理由を聞くために単独で歩いてきていたのだ。
その男の名前は水明郷。
新賢者と呼ばれている者であり、今しがた機械少女の計略によりS級相当のミミックを502個体引き当てていた奴だ。
笑顔を浮かべながからミミックを破壊した理由について聞いてきた水明郷に対し、一歩前に出た機械少女は宣戦布告と受け取れる言葉を口にした。
「三華月様がミミックを破壊した理由を知りたいだと。お前等下等動物に説明するつもりはない。」
主人公に絡んでいく名も無いゴロツキ感が満載の尖った言葉だ。
水明郷の顔が怒りに歪んでいく。
一般的な主人公の習性とは、煽り耐性がなく絡まれたゴロツキを片っ端から殺していくと聞いていたが、水明郷を見ているとこの現象がそうなのだろうと思えてしまう。
機械少女は悪党属性。
思惑どうりの展開に持ち込んだことに、口角を吊り上げて物凄く悪い表情を浮かべていた。
この状況を無茶苦茶楽しんでいるようだ。
そして、怒りを滲ませている水明郷と、悪党面をしている機械少女との問答が開始された。
「他人の所有物であるミミックを勝手に破壊した理由を聞いた俺を見下すようなその言葉。謝ってもらえませんか。」
「馬鹿か。私は人の遥か上位存在なのだぞ。虫けらのようなお前ごときに謝るはずがないだろ。」
「俺達人類のことを虫ケラと思っているのですか。俺が罵倒されるのは我慢します。だが、仲間達のことを悪く言われては、黙っておくわけにはいきません。」
「お前の仲間について何かを言った覚えはないが、まぁいいだろう。都合よく仲間のためにという理由をつけながら殺戮を繰り返すお前に話を合わせてやる。もう一度教えておいてやる。下等動物のお前は、私の気分次第で殺されてもいい蚊トンボなのだ。」
機械少女が「クククク」と悪党がする定番となる笑い声を上げならがら、私の方へ親指を突き立てていた。
これは、『サムズアップ』と呼ばれるもので、仕事が成功したことを表現しているものであり、いい仕事をしたとアピールしているのだ。
大きくため息をついたタイミングで、水明郷が私の方へ最終警告となる言葉を口にしてきた。
「聖女さん。あなたもその邪悪な機械人形と同じで、俺の仲間を見下しているのですか。」
水明郷は言葉とは裏腹に、戦う気満々のように感じられる。
面倒くさいことに巻き込まれてしまった。
奴はミミックを計502体ほどガチャで引き当てている。
月の加護か届かない地下迷宮では、できれば相手にしたくない。
対応についてどうしたものかと考えていると、機械少女が小さな声で話しかけてきた。
「三華月様。この展開は、定型のあれじゃないですか。」
「定型のあれとは、どういうことですか。」
「はい。水明郷は三華月様をハーレム嬢にしようと目論んでいるようです。主人公と敵対している美少女の魔王は、戦いに敗れたら理由なくハーレム嬢になるのが定番なのですよ。」
「つまりその話しによると、私のポジションとは魔王ということになるのでしょうか。」
「はい。ここは美少女の魔王とは三華月様になるでしょう。」
念のために聞き直してみるものの、否定しないのは何故なのかしら。
私は世界を清らかに導く使命をもった聖女なはずなのだけど。
水明郷は、機械少女と聞こえない声で会話を交わしている姿を見てイラついたのだろうか、私からの返事を聞くことなく戦闘開始の宣言をしてきた。
「聖女さん。俺の質問に答えるつもりがないということですか。分かりました。少し俺の実力をお見せしましょう。現れろ。新しいミミック達!」
水明郷が手を上げてミミックを呼び寄せる言葉を張り上げると共に、色違いの個体が天井から降下し始めてきた。
その数、3個体。
防御型、攻撃型、特殊型の各1個体ずつだ。
まずは先鋒部隊といったところかしら。
ミミック達が水明郷を護るように綺麗に床へ着地した。
自信に満ち溢れた表情を浮かべている水明郷をみると、戦闘は避けられないものと思われる。
定石で言えば、水明郷を仕留めるべきところなのだろうが、同族殺しは禁止されている。
全502個体ミミックを倒しきるまで、この状況は変わらないところか。
いいでしょう。
ここは全個体のミミックを処分させてもらいます。
――――――――――スキル『マルチロックオン』を発動する。
宣言とともに3個体にミミックのボディへ魔法陣が刻まれた。
特殊型と攻撃型の個体が、防御型の背後に隠れた。
その様子を見ていた機械少女が、ミミック達の隊列について説明をしてきた。
「三華月様。奴等は3機小隊の編成を組んだ際、防御型が背後の2機を護りながら距離を詰めてくるようにプログラムしております。」
防御型の個体が、他2機の射程圏内まで護送してくるという陣形か。
まさに鉄壁の布陣。
だがしかし、思い込みの要素が強いほど、その術中に嵌るというもの。
奴等の強みは防御型が全ての攻撃を防ぐということ。
実際に侍大将が放った『ソニックブレード』を完璧に防ぎきり、更にその後『受け流し』も取得している。
戦いとは弱いところから攻めていくのか定石であることを考えると、防御型の個体から攻略することは避けるべきなのだろう。
だが逆にいえば、最も強固な部分を崩される事態は想定していないというもの。
ミミック達は、防御型が物理攻撃にて破壊されると対応することが出きなくなるはず。
そこから崩して差し上げましょう。
マルチロックオンに続けて、運命の矢をリロードします。
白銀に輝く矢が姿を現した。
続けて、運命の弓を引き絞っていく。
機械少女が心配そうにこちらを見ている。
天井から新たなミミックの個体が降下してくる姿が見えていた。
まずは先鋒となる3個体から仕留めさせて差し上げましょう。
限界まで引き絞り弓のエネルギーを解放させた。
―――――――――――――SHOOT
音速で走る矢が糸を引くように走っていく。
防御型の個体についてはその矢に反応していた。
両手・両足の装備している4本のブレードで受け流すつもりなのだろうか。
ブレードが矢に合わせようとした瞬間。
運命の矢が物理法則を無視して、ありえない方向へ軌道を変えていた。
運命の矢が、走る進路を直角に変えたのだ。
更に、矢が多角形を描くように進路を変えながら、防御型のミミックの背後に回りこんでいく。
当然に防御型は反応出来ていない。
スキル『ロックオン』の効果は必中。
障害物があれば物理法則を無視してでも必ず標的を仕留めるスキル。
私には、攻略不可能となる言葉が無いと知るがいい。
運命の矢が、防御特化型のミミックを背後から撃ち抜いた。
はい、そうです。私が鬼かわ最強のブラックな聖女です。 @-yoshimura-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。はい、そうです。私が鬼かわ最強のブラックな聖女です。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます