第184話 下等動物とは
ここは西方都市にある地下迷宮の最下層。
天井は鳥が自由に飛べるほどに高くとられ、奥に見える壁は500m以上あり整形をしていた。
床は凹凸がない見通しのいい地形となっている。
いわゆる最終到着地点となるボス部屋だ。
今しがた破壊した攻撃特化型のミミックが炎を撒き散らしていたせいだろうか、焦げたにおいがする。
私の背後には分析班の3人が控えていた。
部屋の中央にはラスボスとなる金属で構成された純白の翼龍がその羽根を折りたたみ、静かに座っている。
ここからみると博物館の展示物のようだ。
その周りには西方都市の領主とそのパーティがこちらの様子を見ており、新賢者と呼ばれる薬士の水明郷が笑顔を浮かべながら単独でゆったりとした歩調で向かってきていた。
年齢は20歳くらいだろうか。
背も顔のつくりも一般的。
普段着のようなペラペラな服装をしているが、それなりの加護が複数かけられている。
もう少し分かりやすい表現をすると、俺なにかやっちゃいましたとほざきながらハーレム王となるような定型の容姿をしていた。
好戦的な雰囲気は感じられない。
初見であるが水明郷の実力が『C級』相当くらいだろうか。
自身に能力を引き上げるバフをかけたとしても『B級』には遠く届かない。
ミミックを一撃で破壊した状況を目の当たりにして、私の実力が『S級』相当であるくらいは把握しているはず。
単独でこちらに歩いてくるには無防備過ぎる。
無駄に強気な様子を見ると、切り札でも用意しているのかしら。
S級スキルでも獲得していない限り、私がてこずるような相手ではない。
そのタイミングで、隣に立っていた機械少女が、水明郷の手札について、小さな声で説明をしてきた。
「三華月様。奴は、今しがた、ガチャに全財産をつぎ込んで、結構な個数のミミックを引き当てたようです。」
「え。結構な数のミミックを引き当てたのですか。」
「はい。正確な個数を申し上げますと、防御特化型145体。特殊特化型198体。攻撃特化型159体です。」
「合計で502個体ほどのS級相当の個体を戦力に加えたわけですか。」
「はい。ですが、それくらいのミミックを加えたくらいで、三華月様に勝負を挑もうとするとは、所詮は下等動物の発想ですよ。」
機械少女の声が弾んでいる。
何だか、無茶苦茶楽しそうだ。
と言いますか、S級相当のミミックが502個体って、結構な戦力以上だろ。
死霊王クラスで無ければ太刀打ちできないというか、私にしても月の加護が届かない迷宮内では相手にしたくないほど。
更に付け加えるならば、水明郷の様子を見る限り、私へ挑もうとしているようには見えない。
邪悪属性ということもあり、思考が混沌を巻き起こそうとする傾向にあるのかしら。
何しても危ない方向へ持っていかれないように注意するべきところだ。
その機械少女の言葉であるが、ミミックの排出確率は超低空に設定していたはず。
何故、そんな数のミミックを引き当てたのだろう。
何が一体どうなっているのかしら。
「機械少女に質問です。確かミミックの排出確率を超低の0.0001%くらいに設定していたと記憶しておりますが、その数を引き当てるって、バグでも発生したのでしょうか。」
「さすが三華月様。気がついちゃいましたか。最級局面ということもあり、排出確率を少し甘くしてみました。」
「少し甘くしたくらいではないように思いますが。」
「訂正します。かなり甘くしました。」
「そう言えば、ここに来る前、プログラムの修正をしていると言っておりましたが、その時に修正作業をしていたわけですか。」
「はい。その時にガチャ排出確率の設定変更をしておりました。今日はイベントの最終日なので、確率アップ期間を設けさせてもらいました。」
機械少女は何故かいい仕事をしましたよ。みたいな顔をしながら、ピースサインを作っている。
その判断基準がまったく理解できない。
これは完全に、私のことを邪悪属性であると勘違いしておるな。
と言いますか、今日はイベントの最終日だったのか。
まぁそれはいいとして、やってはいけないその一つに、過疎化を食い止めるため排出確率を引き上げることがある。
それこそが糞ゲーの王道。
古参ファンの怒りをかい、更に過疎化が進んでしまうのだ。
更に機械少女は話を続けてきていた。
「三華月様。これから行われるミミックとの戦闘に備えて一つ報告があります。」
「私がミミック達と戦うことが前提になっている話なわけですか。」
「もちろんです。ここから先も私にお任せ下さい。三華月様の騎士として、満足いく方向へ導くことをお約束致します。」
機械少女の目の型がデスゲームを楽しむサイコパスのようなカーブを描いている。
騎士という言葉が一番当てはまらない。
邪悪属性が者が聖女の騎士だというところにも違和感がある。
満足いく方向というのは、絶対に間違えているだろ。
機械少女がたのしげな声で、プログラム変更についての話しを更に続けてきた。
「三華月様。話を戻します。プログラムの変更についてですが、ガチャの排出確率の変更とは別に、防御特化型にスキルを一つ追加しました。」
「つまりS級相当の戦力を更にパワーアップさせたわけですか。」
「はい。その通りです。追加したそのスキルは『受け流し』です。」
スキル『受け流し』。
物理攻撃を受け止めながら、その柳のごとしエネルギーを外へ流す技。
先の戦闘にて、防御特化型のミミックは分析班の隊長が放った『ソニックブレート』を受け止め、無傷であったものの弾き飛ばされてしまった。
スキルの追加というのは、その対策をしてきたということなのかしら。
機械少女。優秀な機体であることは認めるが、味方からするとややこしいものだとしか言いようがない。
隣へ視線を落とすと、機械少女は照れ笑いを浮かべていた。
「さすが三華月様。気が付いちゃいましたか。推察されているとおりです。スキル『受け流し』を追加した目的は、『ソニックブレード』への対策をするためのものです。」
防御特化型は『ソニックブレード』を完璧に受け止めたものの、軽重量がゆえ、後方へ吹き飛ばされてしまった。
その様子を見ていた機械少女は微妙な表情を浮かべていたが、倒されなかったにしろ攻略されたことが悔しかったのだろう。
まぁ『受け流し』のスキルが付加されたことは、私の放つ一撃も捌かれしまうということか。
だが、一番の問題は、やはり水明郷がガチャで引き当てたその数になるだろう。
4本のブレードを持つ防御特化型が、特殊特化型と攻撃特化型を戦術なのかしら。
水明郷がこちらへ歩いてきている。
その距離約30m。
一定距離まで近づいてくると足をとめ、派手な十字架のデザインが刻まれている聖衣を見たのだろう、聖女の私へ礼儀正しく頭を下げながら自己紹介を勝手に始めてきた。
「聖女さん。こんにちは。俺は薬士の水明郷という者です。俺のミミックを破壊したのは何故ですか。」
私がミミックを破壊した理由を聞きにきたのか。
確かに他人の所有物を勝手に壊すのはよくない。
帝国の三条家からの依頼で、西方都市の領主を保護するためにやって来たのであるが、それはそれ。
こちらの事情だ。
彼等に関係ないと言えばそうなのだろう。
水明郷への返答についてどうしたものか考えていると、機械少女が一歩前に足を出し、私の代わりに宣言した。
「三華月様がミミックを破壊した理由を知りたいだと。お前等下等動物に説明するつもりはない。」
悪党属性を全開している機械少女の言葉を聞いた水明郷から笑顔が消えていた。
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