第183話 お前に名乗る名前はない

ここは西方都市の地下に広がる迷宮の最下層。

現在、機械少女が開催しているというイベントの終着地点。

部屋の広さは500m角以上の大きさがあるだろうか。

石板が綺麗に敷かれ、鳥がストレスなく飛べそうなほど天井が高くとられている。

障害物がなく遠くまで見通せる空間になっていた。

部屋の中央には、イベントのラスボスとなる存在が鎮座している。

全長は3mくらいあるだろうか。

純白の金属で構成されているボディは龍の形状をしており、両翼を折りたたみ、寝ているように動かないでいた。


名前 : Ultimate_Metal_Wing_Dragon

通称 : 純白の翼龍

力 : D

速 : D

耐 : S++

Skill : 無限重力世界、次元刀


耐久力が高いものの、見るべきところはそこではない。

所持している2つのスキルは凶悪無比。

いわゆる究極スキルと呼ばれているやつを獲得しているのである。

現在開催されているイベントに参加しているという西方都市の領主と、水明郷という薬士が、ガチャで引き当てたというミミックを従え、繰りかえし攻撃しているものの、周囲に別次元となる空間を構成している純白の翼竜には、当然届いていない。

攻撃特化型のミミックについては、宝箱の中から業火を吐き続けている。

その熱気により周囲に陽炎が立ち昇り、景色がいくぶんか歪んで見えていた。

そして特殊攻撃型となるもう1機のミミックについては、謎もブレスを吐いている。

機械少女の話によると、そのブレスには呪いを付与する効果があるとのことだ。

重くなくるとか、石になるとか、毒化してしまうとか、とにかくろくなものではないことは確かだろう。

何にしても、2機のミミックについては西方都市の領主と、水明郷を保護するためには障害でしかない。

分析班3人が対応するには荷が重い。

ここは私の方で、仕留めさせてもらいましょう。

不安そうな表情を浮かべている侍大将の隊長へ、下がるように声を掛けた。



「あのミミック2個体については私が処分させてもらいます。」

「三華月様。よろしくお願いします。力不足で申し訳ありません。」



隊長と一緒にボサボサ頭の先輩と、斥候女子も深く頭を下げながら背後へ下がっていく。

————————私は運命の弓を召喚し、運命の矢をリロードします。

3mを超える白銀の弓が姿を現した。

月の加護を受けることが出来ない地下迷宮においても、最強の火力を生み出すことができる代物だ。

防御特化型のミミックならいざ知らず、攻撃型と特殊型の2機については、問題なく破壊できるものと容易に推測できる。

一撃で粉砕して差し上げましょう。

私はスキル『ロックオン』を発動する。

宣言とともに、ミミック一体へ魔法陣が刻まれた。

その効果は『必中』。

特殊な対策でもしない限り、『ロックオン』が外れることはない。

運命の弓に手をかけ、ギリギリと引き絞っていく。

つまり、現時点をもってミミック一体の死亡が確定した。

ジャイロー回転をかけ、威力を最大限まで上げさせてもらいます。

この一撃に撃ち抜かれた物は、跡形もなく粉砕されるだろう。

運命の弓が、臨界点に達していた。

それでは仕留めさせて頂きます。

限界まで溜まっていたエネルギーを解放させた。

――――――SHOOT

つむじ風を発生させながら音速で走る運命の矢が、特殊型のミミックを粉砕し、その威力に跡形もなく木っ端みじんになっていた。

その様子を見ていた機械少女が、拍手をしながら賛辞を送ってくれている。



「さすが、三華月様。私が製作したS級相当のミミックを簡単に粉砕するとは。」



今更ながらではあるが、邪悪属性の機械少女は、何故、聖女の私に従っているのかしら。

もしかして、私も邪悪属性だったりして。

まぁ、そんなことはどうでもいいか。

邪悪属性であるか、そうでないかなんて重要ではない。

結局のところ、何よりも信仰心が大事だからだ。

西方都市の領主のパーティと、水明郷のパーティが、ようやく私達の存在に気が付いた。

遠くから、叫ぶ声が聞こえてくる。



「誰だ。お前達は!」

「ふっ。お前達に名乗る名前はない!」



何故か、小さい声で、機械少女が返事をしている。

当然、相手に聞こえる声ではない。

少女はとても満足そうな表情をしているようだが、このイベントを物凄く楽しんでいるようだな。

私の方は、自身の仕事を粛々と進めさせてもらいます。

私は運命の矢をリロードし、スキル『ロックオン』を発動させる。

攻撃型のミミックが、照準をつけられていることに気が付いたようで、標的を純白の翼竜から私に変え、ピョンピョンと不規則にジャンプをしながら接近しようとし始めた。

そこから業火を吐いても私に届くことはないかと思いますよ。

その様子を見ていた機械少女が警戒を促してきた。



「三華月様。攻撃型のミミックが自己防衛システムを稼働させたようです。」

「自己防衛システムですか。何だか物騒そうですね。」

「その通りです。凄く物騒でして、ミミックには、ガチャを引き当てた者に危害を加える行為を禁止しておりますが、自身の生命を護るための方が優先されるプログラムが組み込まれているのです。」

「何か、強力な攻撃を仕掛けてくるとでも言うのでしょうか。」

「さすが三華月様。気が付いちゃいましたか。あの機体は地獄の炎ヘルファイヤを発動してくるものと思います。」



地獄の炎。その威力は究極系スキル『無限煉獄』には及ばないものの、機械少女の言葉のとおり、これくらいの空間なら、火の海にすることが出来る火力がある。

そもそもだが、そんなことをしてしまうと、ミミック自身も相当なダメージを負ってしまうのではなかろうか。

何にしても、破壊すれば何ら問題なしだろう。

空中に跳ねた宝箱が大きく口を開いた。

残念ながら、もう手遅れです。

それでは狙い撃たせてもらいます。

限界まで引き絞っていた弓のエネルギーを解放させた。

――――――SHOOT

音速で走る矢が攻撃特化型のミミックを破壊した。



「さすが、三華月様。お見事です。」



機械少女が拍手をしている。

西方領主の方に至っては、私の戦闘力を目の当たりにして驚いていた。

だが、新賢者と呼ばれている薬士の水明郷が笑顔を浮かべながらこちらへ歩いてきていた。

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