第182話 ドンマイです
ここは西方都市にある地下迷宮の最下層。
機械少女が現在開催しているというイベント会場の終着地点となる場所へ、やって来ていた。
分析班の3人と機械少女と共に、迷宮主が専用で使用している隠し部屋につくられていた階段を使用し、ここまで降りてきていたのだ。
石板が綺麗に貼られたドーム型の天井は高くとられ、その大きさは集団戦が余裕で行えるくらいのサイズ感がある。
部屋の奥に見える壁はここから500mくらいはあるだろうか。
床は岩盤をカッターなような刃物にて凹凸なく仕上げられており、遮るものがなく見通しがいい。
天井には照明が設置されており、その空間は昼間のような明るさが保たれている。
風や異臭の類いもなく、快適な空間が確保されていた。
室内の中央。
異彩を放つ特別な存在が、ズシリと鎮座している。
純白の金属が光り輝いているメタルドラゴンが、翼を折りたたみ動かないでいた。
静かに眠っているのかしら。
全長は3mくらい。
それほど大きくはない。
だが、離れていても分かるほど、圧倒的な存在感がある。
実際に、私の危険を予知した際に発動するスキル『真眼』が発動していた。
その個体の能力が、ステータス画面として浮かび上がってくる。
名前 : Ultimate_Metal_Wing_Dragon
通称 : 純白の翼龍
力 : D
速 : D
耐 : S++
Skill : 無限重力世界、次元刀
その名は
能力値は耐久値が突き抜けているものの、全体的にはそれほどのものではない。
だが、獲得しているスキルが相当に危険だ。
無限重力世界。
それは自在に重力場をつくりだし、星の墓場と言われているブラックホールを生成する凶悪無比なスキルだ。
そして次元刀とは、次元に断裂を起こし空間を斬り裂くもの。
つまり、全ての物を断裂することが出来るという代物である。
月の加護が届かない迷宮内では、私でも相手にしてはいけない奴で間違いない。
この機体こそが、現在開催しているというイベントのラスボスに該当するのだろう。
S級相当のミミックも相当危ない機体と思っていたが、純白の翼龍については遥か遠く格上だ。
こんな危険な物をつくる機械少女に関しては、その性格も含めて地上世界で最も危ない災害なのではなかろうか。
遠い未来。私の討伐対象になる可能性を感じるものの、現状において神託が降りてくる気配は微塵もない。
期待しないでその時が来るかもしれないことを、気長に待つことにしましょう。
その『純白の翼竜』が鎮座をしている周辺に、2つのパーティが群がっている姿が見えていた。
それぞれが色違いのミミックにてその存在へ攻撃を繰り返しているところを見ると、彼等こそが探していた西方都市の領主と、凄腕の薬士として名声をはせている水明郷であると、容易に想像できる。
その様子を見て、隣にいた機械少女が口を開いた。
「愚か者達が。Ultimate_Metal_Wing_Dragonは近くにいるように見えているが、その間には次元の狭間が存在するのだ。ブッ壊れキャラのミミックごときの攻撃など、そこに届くはずないことが分からんのか。」
機械少女が凶悪な表情を浮かべている。
次元の狭間があるということは、あの個体は別次元にいるようなものということなのかしら。
遠くから見ていても、ミミック達の攻撃が届いていないことがよく分かる。
当然に純白の翼竜は静かに眠ったままの状態だ。
機械少女は、ボスキャラと戦うためにはミミックを3個体揃える必要があると言っていた。
最後の個体となる防御特化型のミミックはここにはいない。
つまり、純白の翼龍は目覚めないということ。
現状況下では私の支障となる個体は存在しない。
現時点をもって、西方都市の領主を保護するという三条家からの依頼が、ほぼほぼ完了したと言えるだろう。
お洒落女子の斥候と、A級相当の実力をもつ侍大将の隊長とが、これからの対応について交わしている会話が聞こえてくる。
「隊長。西方都市の領主を発見しました。」
「うむ。確かにあそこに見えているな。」
「どう動きましょう。指示して下さい。」
「そうだな。とりあえずここは待機だ。」
「待機ですか。隊長。見て下さい。室内の中央にいる『純白の翼竜』へ、領主と水明郷と思われる人物が攻撃をしています。放っておいたら不味くないですか。」
「いや。龍への攻撃は届いていないようだ。このまま放置しておいても、大丈夫なんじゃないか。」
侍大将の親父は腕組をして動く様子がない。
その様子を見ていたお洒落女子は、聞こえないように舌打ちをしていた。
隊長を見る瞳は、完全に見下している。
その親父は、帝国戦力の中核を構成する1人のはずなのだが。
後輩の斥候女子は隊長との話しに見切りをつけ、焦れた表情をしながら、次に近くにいたボサボサ頭をした鑑識の先輩へ声をかけた。
「先輩。あの純白の翼竜がボスキャラで間違いないかと考えますが、どう思いますか。」
「そうだろうな。寝ているようだが、あれには近づかない方がいいだろうな。」
「あの龍を倒すことに成功したら、『魔王の秘宝』を獲得できますよ。先輩にモテ期がくる奇跡が起きるかもしれないです。頑張りましょう。」
「俺にモテ期が来るのか。いいじゃないか。だが、他の者からの力を借りてモテ期が来たとしても、それは俺の力ではない。俺は地道に努力していくことにするよ。」
「そうですか。モテ期は諦めるわけですか。」
「俺の話し。ちゃんと聞いていたのか。」
「先輩。空想世界の話しはもう終わって下さい。とりあえず、『search_eye』を使用し、戦闘力を計測してもらえませんか。」
「まぁいいだろう。あの機体の戦闘力か。『search_eye』を使用するまでもないだろ。あれは『ドラゴン級』だ。」
「もしかして、S級相当のミミック達の攻撃が届かない状況を見て、ドラゴン級だと考えたわけですか。それぐらいのことなら、私にも分かることですよ。」
「そうだ。そうだよ。それくらいのことを見て、そう思ったんだよ。」
「先輩。ドンマイです。」
「おい。なんでドンマイなんだ。勝手に俺が、失敗して気落ちしていることにするんじゃない。」
いつものとおり、生産性の無い会話が繰り返されている。
2人のやり取りを見ていた侍大将の親父は、首を左右に振ってあきれているようだ。
安定の展開だ。
斥候女子は更に苛立った表情を浮かべ、我関せずを決め込んでいる隊長へ、再び噛みついた。
「隊長。とにかくです。私達の任務は、西方都市の領主を保護することです。早く終わらして、帝都へ帰還することにしましょう!」
お洒落女子の言葉の語尾が強い。
会話の98%くらいは生産性のないものであるが、残り2%くらいの確率で物事の本質を付いてくる。
今まさに、その2%が発動したようだ。
ここは領主を保護するべきところ。
斥候女子の言葉に、隊長が動揺した表情を浮かべ、たどたどしく言葉を返してきた。
「ちょっと待て。私達の任務は三華月様のサポートだったはずだ。」
「隊長。なにを言っているのですか。三華月様の任務が領主の保護じゃないですか。」
「いやだから、冷静になって、領主と水明郷を見てみろ。」
「はい。色違いのミミックを従えて戦っている姿が見えています。」
「それだ。それなんだ。あそこには、ミミックが2機もいるんだぞ。」
「はい。隊長がぶっ倒せばいいだけの話しじゃないですか。」
「いやいやいや。あいつ等は、私が繰り出した『ソニックブレード』を完璧に防御した機体なんだぞ。」
「隊長は、見て見ぬふりを決め込むつもりなのですか。」
「そうだ。見てみぬふりをすることは、否定しないが、もう少し言葉を選んでくれないだろうか。」
「分かりました。言葉を選びます。隊長は、悪事を黙認するつもりなんですか。」
「いや。違うだろ。私は悪事を黙認していないだろ。」
悪事を黙認する話しはともかく、後輩女子の言葉は正しい。
だが、あの2機のミミックはS級相当で間違いない。
結局のところ、分析班が相手にするには荷が重いということだ。
はい。ここは私が、ミミック2機を破壊して差し上げましょう。
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