わたしのぎこぎこさん

尾八原ジュージ

ぎこぎこさん

 ぎこぎこさんは話すと伝播するタイプの怪異である。ということで、わたしは機会とみればぎこぎこさんの話をしてしまう。

 わたしの知る限り、ぎこぎこさんは「八割くらいのひとは自力で撃退できるくらいの怪異」だ。残りの二割はどうなったかというと、一割は変死体で見つかり、一割は行方不明になっている。わりと危険だ。

 ということで最近はみんな、なかなかわたしの話を聞いてくれない。わたしが口を開けばぎこぎこさんの話をするということは、すでに知れ渡っているのだ。

 幼なじみのナナコなんかはもう三十回くらい聞かされているので、わたしがしゃべり始めるとものすごい右ストレートを叩き込んでくる。わたしももう何度もこれを喰らっているのでかわしてボディに一発、しかしナナコの腹筋に阻まれて効果はいまいち、体勢を崩されたところに背中に肘鉄を受けて、わたしは地面に倒れた。

「次やったら絶交だから」

 もう何回目かわからない最後通牒とともにナナコは去っていく。でもたぶん、明日にはまたいつもみたいに「お弁当たべよ」と声をかけてきたりすると思う。それがわたしたちの仲というものなのだ。

 それにしても地面は冷たいし土臭いし、倒れたすぐ目の前に死んだバッタが落ちていてとても不愉快だ。

 なぜこんな思いをしてまで、わたしはぎこぎこさんの話を広めようとするのだろう。たまに冷静になってそんなことを考えるけれど、すぐに心が「理由なんかないよね」とにっこり微笑んで、わたしの理性は眠ってしまう。

 だってわたし、ぎこぎこさんが大好きなんだもの。ぎこぎこさんの話が、起こす怪異が、わたしはたまらなく好きなのだから、誰かに伝えたくなるのは当然というものだ。というわけでぎこぎこさんの話をします。ぎこぎこさんの話を聞いたあなたのおうちには、今夜十二時ぎこぎこさんが訪ねてきます。ぎこぎこさんに帰ってもらうには、これから言うことをしなければいけません……

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わたしのぎこぎこさん 尾八原ジュージ @zi-yon

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