第2話 毎日がエブリデイ
爆弾鳥というのは、もちろん俗称である。昔はドローンとか呼ばれていたらしい。いやドローンは自律してないんだっけ。どうでもいい。要は飛んで爆弾落としてく厄介な奴だ。
「ほら、行くぞ。零一」
零一は少し遅れてついてきた。
我々の居住区であり基地は地下にあるため、地上に出るには、まず階段を上って屋上へ出る必要がある。エレベーターもあるが、故障していて動かない。我々は基本的に明るい場所が苦手だ。眩しくて眩しくて元々あまりよくない視覚がまるでダメになってしまう。遮光メガネをつけて戦闘服を着て、北玄関に向かう。北玄関には班員十名が勢揃いしていた。
「遅いっすよ」
と三零。
「悪い」
俺は軽く謝った。
「あ、あと誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
ともう一度俺は言った。
誕生日とは、ただ年齢が一つ増えるだけのことでしかない。だがロボットの脅威に晒され、常に危険と隣り合わせであり、また元々の寿命も短い我々にとって、十九歳という年齢は一部隊任せられるには充分である。
「しかし二五番もあと一年で老入りか~」
「一年後なんてまだまだ先だ」
老とは指導者階級のことである。二十歳になるとその仲間入りで、そのトップが長老だ。
「まあまあ、そんなこと言わずに。老になったら俺に一部隊くださいよ」
「考えておく」
軽口なんだか本気なんだかわからない三零の言葉を受け流し、点呼をとってロボットが暴れているという畑に向かった。実際のところ三零は優秀だ。俺の推薦などなくても一部隊任される日はそう遠くないかもしれない。
我々の食料は主に基地で生成される培養肉である。だが我々の身体は、完全なる肉食には適していないので、どうしても畑がいる。基地では食品の研究もされていたようで、巨大なゾウリムシとかプールいっぱいのスピルリナとか植物性と言えなくもない生成物もあるにはあるのだが、とても食べれたもんではない不味さである。危険を犯して基地の外に出ていくのはそういうわけだ。
「あーあー」
トウモロコシ畑を見て、思わず声が出てしまった。機械がブンブン飛び回って爆弾を落としてまわり、軽い火事になっている。
「よし、行くか」
「はい! 」
部下たちはいつも通り元気良く返事をした。機械の鳥はとっくにこちらを認識し、爆弾を落とすべく飛んでくる。
「よっ」
先頭集団を念動力で撃墜する。自分の背丈の三倍ほどの長い腕で、はたき落とすイメージだ。三機仕留めたがあと五機ほど残っている。
「三零、一六、三時方向を頼む」
「ラジャー! 」
「了解です! 」
爆弾鳥は一直線に突っ込んできて爆弾を落とした。
「うわっと! 危ねえ」
三零はギリギリで避けたようだ。
「九時方向に一機! 」
「一二! 二六! 」
「ほーい」
この二人の連携は見事である。彼らはこの班で一番若い。
「三零! 右から来るぞ! 」
「わかってますって」
三零は爆弾鳥の進路上に飛び出して、爆弾鳥を地面に叩き落とし、すかさずその頭を念力で破壊した。
「ナイス」
「いえいえ」
残りは俺が指示を出している間に零一が処理した。
「終わりましたね」
零一が言う。
「ああ、よくやった」
「うん」
照れ隠しに口元を触る癖がある。零一だけがやる癖だが、俯きがちの表情はあまりにも彼に似ていて目を背けたくなる。このくらいの年齢になれば皆そんな顔をしているのだが。
「帰りましょう」
「そうだな」
俺たちは踵を返して基地に戻ろうとした。
「待って! 」
三零の声だ。
「もう一機! 」
すでに爆弾が投下されていた。
「にげ」
言葉を話そうとしているのか大きな声をあげたいだけなのかわからないことがある。零一は三零を助けようとしたのだと思う。零一の立っているところから少し近づいて念動力で弾き出せば、爆弾の軌道から三零を逃がせる。見通しが少しばかり甘かった。
轟音が収まり、視界が開けると、死にかけの人間が二人いた。
「ねえ」
駆け寄ると三零が何か言おうとしていた。零一は頭を打ったらしく意識がないが、三零は意識があった。そのかわり下半身がまるごとなかったが。
「なんだ」
「もうだめみたい」
「そんなことない」
「いや、無理でしょ」
「……」
俺は何も言い返すことができなかった。
「あの」
「なんだ」
「ごめん」
「なんで謝る必要がある」
「うん……痛いよ二五番」
「そうか」
「……死にたく、ないな」
三零はそこで気を失った。
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