第4話 どうせ、同棲
レーイチのおかしな言動は続いた。俺の部屋に住むと言い出したのだ。
「なんでだよ」
と問い詰めると
「二二番とは一緒に住んでたよね」
と返された。
「……そうだが」
俺はそう呟くしかなかった。事実だ。だがバディなら一緒に住むわけではないし、というか今まで違う部屋だったし、俺の部屋に住まなきゃいけないわけじゃないし……
「ところでさ」
「なんだ」
「僕は二二番の代わりとして君のバディになったんだよね」
「そうだな」
「でもね」
レーイチは長い髪をかきあげて耳にかけた。
「僕は彼の代わりにはならないことにした。神の子にはなれない。だから僕は僕のままニコの側にいる」
レーイチは右手を差し出した。
「改めてよろしく」
手を握られた。まあ自然な流れだ。振り払う理由もないので、眉をしかめるしかない。
「苦虫噛み潰したみたいな顔しなくても」
「そんな顔していない」
「そうかな」
「そうだ」
「まあいいけど」
手を握る指に力が入った。手を引っ張られ、距離が近くなる。
「僕は」
囁くように言葉が吹き込まれ、吐息がかかる。単純にくすぐったくて体が震えた。
「……ッ」
レーイチの手を振り払って距離を取る。耳たぶがあつい。レーイチは再び距離を詰めることはしなかった。
「僕は、なんだ」
「僕は死なないから」
「死なないのはロボットかバケモンだ」
「それもそうだね」
レーイチは肩をすくめた。
「じゃ、僕は寝させてもらうよ」
自室から持ってきたわずかばかりの荷物からコップと歯ブラシを取り出すと、レーイチは洗面所に去った。……なんなんだよ。
結局、俺も眠気には勝てずそのままベッドで寝た。そして朝、目を覚ますとレーイチは床に寝ていた。俺に背を向け、床に毛布を敷いている。
明らかに寝にくいであろう状況のわりに、規則的に寝息を立てている。正面にまわりこんで髪をかき分けると、顔をしかめながらもぐっすり寝ているようだ。ふと思いたって彼の唇に指先で触れた。
寝ぼけ
少し湿り気を帯びながらも、カサついた皮が指に触れる。軽く押すと唇ごしに前歯の硬さを感じる。身体の芯を形容しがたい感情が駆けていくのを感じた。
「んう」
レーイチが喉を鳴らした。
「……ッ!! 」
思わず息を呑んだが、起きたわけではないらしい。
謎の罪悪感と馬鹿馬鹿しさに襲われた。何をしているのだろう、俺は。
「僕は変わるからね、ニコ」
レーイチがそう言った時、面食らうと同時に、どこか納得している俺もいた。その声と共に、腹の奥底に眠っていたものを突きつけられた気がした。突きつけられたものは、行き場を失い、渦を巻いて彷徨っている。
変わるからね。自分は今までの零一ではないからね。アレはそういう宣言だった。
認めよう。零一は二二番に似ていた。寡黙で、優秀で。でも二二ではなかった。俺より年下で、部下で。
「ああぁ……」
小さくため息を吐いた。わかっていたんだ。零一は二二番を重ねられることを嫌がっていた。でも俺に拒絶されるのが怖くて、それを言葉にはしなかった。その気持ちを、俺は気づかないフリをしていた。
二二番の代わりが欲しかった。
喜びが失われると共に、締め付けられるような無力感に襲われた。
「あいつのバディが俺じゃなかったら……」
一六の呟いたことは、俺が思ったことでもある。耐え切れずに吐き出そうと、吐き出した言葉によって、楔がより一層深く打ち込まれた。こんな自分を知りたくなかった。
昨夜、俺の指を握った手に触れてみる。指先から手の甲へ指を滑らせると、不意に手首を掴まれた。
「ひぃ……ッ! 」
喉奥から悲鳴じみた音が漏れる。いや悲鳴か。
「……起きたのか」
レーイチには驚かされてばかりだ。
「そりゃ起きるよ」
俺のもやもやなど露知らず、レーイチは目を擦った。
「んで? 」
彼は何か要求があるらしい。
「んでって……何か言いたいことあるんなら言えよ」
「おはようのちゅーは? 」
「するかバカ! 」
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