第5話 ロンリーlonely論理
二二の話をしよう。彼は一番優秀な戦闘用クローンであり、同時に俺の恋人でもあった。彼とバディになったのは偶然だった。元々バディを組んでいた相方が死んだのだ。
二千二百二十二年の二月二十二日生まれ。そんな生い立ちが影響するのかはわからないが、二二は念動力の扱いに長けていて、十歳で戦場にでていくらもしないうちに神聖視されるほどだった。我々は十歳で基地の外に出るのだが、恐怖ですくむ同い年の中でただ一人
「ワクワクする」
と宣った男だ。
生まれた日付が近いので、お互いのバディが死んでバディを組むことになっても、知らない奴じゃないし、と軽い気持ちでいた。実際、よく一緒に遊んでいた。バディになってからは俺達はいつも一緒で、それが当たり前だと思っていた。
寂しさからか寒さからか、身体が震える。悲しむことも寂しがることも俺を助けてくれることはない、と理性は拒むが、感情には逆らえない。唇を噛み締めた。
俺はまた、例の人工子宮の前にいる。
ガラスに映る人影は歪んでいればいるほどいい。自分と認識しなければ彼といるような気分になれる。なぜ俺はこれほどまで彼に執着しているのだろう。恋人だったから?
正確には恋人だと名乗りあったことは一度もない。ただ時間を共有した、空間を共有した、感情を共有した、それだけ。不可解。不可解だ。全く合理的ではない。生物の目的が種の存続なら、俺はこの基地に住むクローンを分け隔てなく守ることが最適だ。恋の目的が生殖の効率化ならクローン間でそれが起きるのは意味不明だ。そもそも我々に生殖能力はあるのだろうか。医学書に示された外観および生理現象は一通り持ち合わせているが、女という対になる存在のいない現在、我々が男だと示すものはなんだろうか。かなり変則的ではあるが単為生殖を獲得した時点でそんなことを気にするのはナンセンスかな。まあ、とにかく。
俺は彼に執着している。二二二二ー二二二番という存在に。現在進行形で。二二番を喪ってはじまった感傷の狂宴は、年月がたっても続けられ、俺は零一とバディを組んでからも時間さえあればこのように感傷を垂れ流し続けた。あの時、自我も感情も何もかもが奪われてしまえば良かったのに。こういう態度が零一を傷つけていたことはよく理解していた。
それでも、どうすればよかったのだろう。
「僕は変わるからね、ニコ」
零一、もといレーイチは確かにそう言った。その変化になぜここまで心乱されなければならないのだろう、彼が変わろうが変わるまいが俺は彼を傷つけるだろうし、そこにいちいち申し訳なさを感じる殊勝さを俺は持ち合わせていなかったはずだ。だいたい三零が死んでいる。そちらを悲しんだ方がいいのではないか?
ニコ。不思議な響きだ。番号を少しいじっただけなのに、古い時代の名前みたいな。名前の特別さは本人に影響するのだろうか。ゾロメの二二が特別だったように。
二二が特別なのはその戦闘能力だけではない。彼だけがテレパシーを使えた。
彼と俺の絆ゆえ、というのは別に思い上がりではなく、我々が共有している見解だ。彼だけが俺のみに発信することができた。零一とのバディでもテレパシーの発現を期待されていたが、この一年でそれは叶わなかった。
ガラスに額をくっつける。ひんやりとした感覚が心地よい。二二の死後、空胎となったこの人工子宮から二二が生まれなおしてくる、と噂しているやつもいるらしい。信じてはいないが、そうだったらいいとは思う。不可解だ。
俺自身が生まれてきた人工子宮は今も稼働している。俺の誕生日に出産を終え、今は準備期間だ。軽く挨拶をして、俺はその場を後にした。
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