第6話 大切かそうでないか
ただ機械の様に淡々とガレキを片付ける。
「あーあ、酷い有り様だな」
レーイチは、そう言いため息を吐いた。
「本当にな」
吐き出される声。俺たちは荒らされたトウモロコシ畑を再建すべく片付けに追われている。
「ああっ!! そこ!! 」
注意したにも関わらず、レーイチはロボットの爆撃によってできた穴に落ちた。
「もうやだー」
レーイチは、ぶうぶう不満を垂れ流しながら這い上がった。
「全くしょうがないなお前は。嫌なのは俺もだが」
俺がレーイチの意見に同調すると
「……しょうがないでしょ」
一六がボソッと呟いた。一六のバディである我が班のエース、三零が死んで数日立つが、一六のバディは空席のままである。指導部である老が決めあぐねているらしい。
そもそも我々がバディを組むのは戦闘用クローンとして機能していた頃の名残りだ。だが二二と俺の間でテレパスという新たな能力が発現したことで、意味合いが変わった。すべてのバディは絆を深めてテレパスが使えるようになることを期待されている。当人もそれを期待している。それまでのように余った人材で適当にバディを組めなくなったのだ。
「ひ、ああああ」
情けない悲鳴をあげたのは二六。まだ十歳の新人だ。
「どうした? 」
「な、なんかニュルッとぶにっと……」
「なんだミミズか。土のためになるからちゃんと元に戻せよ」
「ひえええ」
我々は十歳になるまで基地の外に出ないので、生き物が苦手なことが多い。二六は半泣きになりながらミミズを移動させていた。
「ニーロ。大丈夫だよ。ミミズは怖くないよ」
適切なんだかよくわからないことを言ってレーイチが構ってやっている。あとニーロってなんだ、勝手に名前を変えるな。
そんな姿を一六が睨んでいた。隠しているつもりなのだろうが敵意のようなものまで出ている。
一六が三零のことをどのように考えてきたかは本人しか知らない。だがハタから見てうまくいっているペアだったし、三零のことを大切に思っていたのは間違いない。そんな三零が死に、一緒に死んだかと思えた零一はピンピンしている。優秀で寡黙な零一ではなく、煩くて突飛な行動をするレーイチに変化して。
「一六。ちょっといいか? 」
「……いいですけど」
一六の敵意は俺にも向いている。まあそうなるよな。
「お前、レーイチのこと嫌いか? 」
「……」
「答えて」
「嫌いとかそういうんじゃないです。変わりようにびっくりはしましたけど、まあ頭打ってたし、しょうがないんじゃないですか? 生きてて良かったです」
最後の一言は全くの嘘だろう。
「お前は偉いな」
「は? 」
「いや、なんでもない」
「じゃあ、失礼します」
そう言うと一六はガレキを退けるために立ち去った。彼の気持ちは推測できる。レーイチではなく三零が生きていたら……ということだ。俺も二二が死んでから考えることがある。なぜ彼だったのか。特別な彼ではなく他の誰かだったら良かったのに、と。
遺伝子を共有している我々でさえこうなのだ。一人一人遺伝子が異なる旧世代の人間が、困難にどのように立ち向かったのかは興味深い。つまり我々でさえ『大切な仲間』とそうでない仲間を作ってしまうのに、血縁と非血縁という『大切かそうでないか』がより顕在化した中で、どう対処したのだろう。不可解だ。
ちなみにバディが五つで一つの班、という制度も戦闘用クローンだった頃の名残りらしい。分隊と数えられていた時期もあるとかないとか。
トウモロコシ畑の再建にはまだまだ時間が必要なようだ。ガレキの撤去作業をしているうちに日が暮れた。
「お疲れさん」
俺は班員に声をかけると基地に戻ることにした。
「ねえニコ」
「ん? 」
「僕、今日一日頑張ったよね」
「ああ、そうだな」
「ご褒美がほしいな〜」
「お前なあ」
軽口を叩きながら帰る俺とレーイチを、一六は変わらず冷たい目で見ていた。
「ふざけんな! 」
一六はその手を振り払った。
「俺はあんたじゃなくてアイツに生き残って欲しかった! ヘラヘラして二五番にもベタベタしてどうしたいんだよ! あんたなんか嫌いだ! 大嫌いだ! お前が死んでれば良かったのに! 」
一六は声をあげて泣きだした。その手首には白い髪の毛が巻き付いていた。遺髪だろう。
嫌がる一六を押さえつけながら、レーイチは彼の肩を抱いた。
「イチロ、それでいいんだよ」
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